【合同会社ユー・エス・ジェイ】大規模/サービス業
・健康経営宣言後、健康経営優良法人2023・2024(大規模法人部門)と2年連続で認定を受けた。
・コロナ禍をきっかけに本格的に健康経営への取り組みを開始。健康診断のメニューの充実化だけではなく、何千人もが効率的に受診できる体制づくりにも力を入れる。
・さまざまなスポーツイベントや熱中症対策プロジェクトは健康な身体づくりに加えて、コミュニケーションの活性化にも役立っている。
大阪市にあるユニバーサル・スタジオ・ジャパンを運営する合同会社ユー・エス・ジェイ。社員とアルバイト(クルー)を合計して約1万5,000人の従業員が在籍しており、パーク内では1日当たり5,000〜6,000人が勤務している。クルーに学生も多いことから、卒業・進学等で定期的にメンバーの入れ替わりがあるという特徴があり、さらに近年はミドルシニアを含めた幅広い年代のクルーが活躍する傾向にある。
年齢や性別、国籍などの多様性を尊重しながら、全ての従業員が健康になれる行動ができるように継続的に働きかけていくためには、どのような創意工夫が必要なのかーー。今回、同社の5名に、健康経営に取り組んだ経緯や特徴的な施策、表れた効果などについて話をうかがった。
・鎌田佳弘氏(以下、鎌田氏)/人事部 次長
・市場友子氏(以下、市場氏)/保健師
・岩本のり子氏(以下、岩本氏)/人事部 両立支援担当
・島田悠史氏(以下、島田氏)/人事部 福利厚生(従業員食堂・スポーツイベント)担当
・脇本奈津子氏(以下、脇本氏)/人事部 健康経営申請取りまとめ担当
コロナ禍をきっかけに、安心や健康への意識がさらに高まる
Q:健康経営に取り組み始めた経緯についてお聞かせください。
鎌田氏:2020年のコロナ禍では、パークも休業を余儀なくされました。これをきっかけに、安心・安全や健康への意識が非常に高まり、いち早くコロナワクチンの職域接種の実施や安全衛生対策の徹底などを図りました。2022年頃、世の中のビジネスが戻ってくる段階で、従業員が心身ともに健康で安心して働ける最高の職場を目指し、健康経営に本格的に取り組み始めていくこととなりました。
Q:1日に数千人出社、トータルで1.5万人規模の従業員が在籍している中で、健康経営に取り組んでいくためにどのような工夫をされていますか。
鎌田氏:従業員参加型の健康イベントを多く実施したり、健康診断も年間数千人という規模の大きいものになることから、受診時間などの効率化を図ったり、また冬の寒い時期になると、インフルエンザの予防接種を会社内で無料接種できる環境を準備したりなどさまざまな角度からアプローチしています。さらに、食事環境にも気を配っており、クルーカフェ(従業員食堂)では2023年より自営化運営を行い、ヘルシー志向のメニューも提供して健康意識を高めるといったことも実施しています。
市場氏:健康診断については、「待つ時間が大変だ」という声もあったことから1分単位で案内できるように仕組みを変えました。これにより、1時間かかっていた健康診断が1人当たり20~40分で完了するようになっています。さらに、健康診断の際、乳がん検診のマンモグラフィーやエコー検査、子宮頸がん検診などが同時に受けられる体制に組み直したことで、希望者が昨年度比で300パーセント以上に上昇しています。会社のコスト負担は大きくなりますが、早期発見・治療に結びつけることができるので、来年度以降も続けていこうと考えています。
従業員が利用しやすい「クルーカフェ」や経営陣も参加して熱中症予防にドリンクを配る「オアシスプロジェクト」など、ユニークかつ確度の高い取り組みを実施
Q:数ある取り組みの中でも、”卒煙”に力を入れていらっしゃるとお聞きしました。
鎌田氏:2024年1月から従業員施設内は全面禁煙としました。会社の中では吸えませんが、喫煙率はまだゼロではありませんので、引き続き啓蒙活動を実施していく予定です。具体的には、「たばこには病気になるリスクがあること・1日に何度も喫煙すると業務効率化にマイナスの影響があること・卒煙に向けたサポート体制があり相談できること」などを引き続き伝えていく予定です。2025年1月からは大阪市内全域で路上喫煙禁止となることもあり、具体的な目標数値をもって卒煙させるというよりは、世の中がたばこを控える風潮にあることを理解した上で、従業員自身の健康保持・増進および受動喫煙による周囲への影響について訴えかけていくという姿勢で取り組んでいます。
Q:そのほか、健康行動を促す取り組みとして特に注力していることは何ですか。
鎌田氏:クルーカフェは、休憩時間に従業員が安価で美味しいものを食べてくつろげる空間を提供したいという思いから、2023年7月に全面リニューアルして、内製化しました。”日本を代表する従業員食堂”を目指しています。
エネルギーをきちんと摂れる「バリューメニュー」に加えて、健康を意識した「ヘルシーメニュー」も用意しています。定食3種類はすべて360円です。年末年始には年越しそば・ぜんざい・雑煮をふるまったり、外国人従業員のためにふるさとを感じてもらえるようなDE&Iメニューを出したりといった、食を楽しむことを通じて、従業員の満足度やエンゲージメントに大きく貢献しているのを感じています。
島田氏:さまざまなスポーツイベントを実施しており、ソフトボール大会やバレーボール大会、閉園後のパーク内を走るユニークな駅伝大会などがあります。健康経営を推し進める中で何ができるかと考えて始めたのがヨガのイベントで、毎回会場が埋まるほどの人数が参加しています。またスマートフォンのアプリを活用してより歩く機会を増やすなど、日々の生活習慣から見直せるような福利厚生も提供しています。
夏には、熱中症対策の「オアシスプロジェクト」を2020年より実施しています。従業員が利用する自動販売機でいくつかのドリンク商品を100円で提供したり、スポーツドリンクや塩分タブレットやミストファンを置くオアシススポットを設置して、クルーがすぐに水分補給して休憩できる場所を整えたりしました。さらに、屋外勤務するクルーに直接ドリンクサーバーで飲料を提供する「オアシス隊」も結成し、会社がチームとなって、暑い夏の健康対策に励みました。
Q:オアシス隊の活動は、さまざまな効果をもたらしているようですね。
鎌田氏:社長をはじめとする経営陣、各部門のマネジメントや労働組合なども含めてオアシス隊に入隊して、給水活動を行いました。オアシスプロジェクトの満足度調査は95パーセントで、来夏もしてほしいという声は98パーセントにも上っています。また、熱中症発症者が昨年比で半減するといった健康に対する効果や、従業員とクルーとのコミュニケーション機会の創出といった相乗効果も生まれています。
勤務時間の徹底管理や休暇の活用で、誰もが安心して働き続けやすい職場に
Q:プライベートと仕事の両立支援、すなわちワークライフバランスの実現に向けてどのような施策を展開されていますか。
鎌田氏:労務管理においては、勤怠管理システムとBIツールを活用しながら、安全衛生委員会で毎月労働時間の実績や改善施策の共有を行ったり、管理職が日々の勤務時間の進捗を見ながら月内で超過しそうな従業員に働きかけて残業が減るように対応したりしています。結果として、時間外は前年比で大幅に削減いたしました。テーマパークということから年中無休で営業時間も長く、季節ごとのイベントが多く常に新しい施策を展開していますので、労務管理を高いレベルで取り組む必要があります。例えば「深夜のリハーサルから、そのまま早朝のオペレーションに入る」といったケースが発生しないように、独自のルールである「連続勤務7日以上は禁止・勤務間インターバルを8時間以上設ける」なども遵守徹底しています。
加えて、2024年は過去最大規模で、労務管理トレーニングを実施しました。正社員3,300人のほぼ全員にトレーニングを受講してもらい、管理職には適切な時間管理やルールの説明、さらに従業員にはルールを理解してタイムマネジメントしてほしい旨を伝えました。
岩本氏:今年の前向きなアクションとして、マイタイム休暇の適用範囲の拡大もあります。有給休暇が失効してしまった分については年度で5日間までマイタイム休暇として子どもの行事などに使えるようにしていたのですが、幅広いライフステージ、様々な家族のあり方に対応するため、規定改定を行い、不妊治療や家族の介護、様々な家族行事、さらにはペットに関することまで取得適用範囲を拡大しました。両立支援にも役立てられるようになり、有効的に活用している方が増えています。
Q:来年度以降、取り組んでいきたいことや課題について教えてください。
鎌田氏:幅広い年齢層、外国人、LGBTQ+、障がいのある方などさまざまな多様性を受け入れてビジネスを展開している企業であるゆえに、1人でも多くの従業員に健康で安心して長く働きたいと思ってもらえる職場環境創りを継続し、「選ばれ続ける企業」を目指したいと考えております。健康経営に関しては、具体的には健康診断の要所見率を下げること、従業員のヘルスリテラシーを高めること、そしてできるだけ多くのプログラムを提供して楽しんで参加しやすいものを見つけられるようにしたいです。
また、パークはクローズしてからも次の日のオープンまでの準備をするために、夜間でも常に誰かが働いているところです。そのような特性を踏まえつつ、”睡眠”をきちんと取れるように労務管理を強化していく必要があるのではないかと考えています。
調査項目を活かして、自社に合った施策にチャレンジしてほしい
Q:最後に、これから健康経営に取り組みたい企業や社員の健康を楽しく管理できるようにしたいと考えている方々に向けて、メッセージをお願いします。
鎌田氏:我々はスローガンに「NO LIMIT!」を掲げています。ゲストに”超元気”になってもらうためには、やはり働く従業員が超元気でなければならないと思います。同様に、どの企業においても従業員の方々が超元気に働き続けられるようにしていく必要があると思います。健康経営を目指す企業様はぜひ健康経営優良法人の取得にチャレンジしていただきたいです。調査項目をチェックしていくことで、既に実践できていること、あまり実現できていないことがわかるという気づきも得られるので、各社に合った課題を選んで推進してほしいです。
岩本氏:両立支援を担当しながら感じていることとして、従業員が家族や子ども、介護など困ったことを相談できる、何かしらコミュニケーションが取れる場所があることで随分と働き方が変わってくると感じています。上司に話せればいいのですが、なかなか言いにくいという場合もあります。このような場所をつくることはどの企業にもできることですので、ぜひ取り組んでみてほしいです。
市場氏:健康管理センターの産業医と保健師で健康経営を実施していた頃に比べると、現在の方が、会社が1つのチームとなってクルーの健康増進に向けて注力できるようになっています。健康経営を通して、会社の色々なチームを交えて協力体制を整えていくことで十分な取り組みが可能となるので、ぜひ当社のような事例を活用してほしいと思います。
島田氏:健康イベントとして、ヨガやピラティスなどの新企画や運営をしている中で、参加される方の年齢層が30・40代中心になってきているので、今後は若手層をも巻き込んだ施策を考えていきたいと思っています。さらに、来年は「食からの健康」を目標に、クルーカフェにおいてスマートミールの認証を受けられるように準備しています。
脇本氏:ワークライフバランスや長時間労働、運動や職場環境などあらゆる方面から取り組んだ結果、年1回実施する従業員向けの満足度調査の数値も良い方向に上がってきています。私自身も、ここ2〜3年で働く場所の雰囲気がオフィスらしいものから、快適にリラックスしながら勤務できるものに変化してきているのを肌で感じています。したがって、健康経営に取り組む際には、もちろん会社によって項目の使い分けは必要ですが、調査項目を道しるべとしながら、1つひとつ取り組んでいくことがすごく良いことだと思っています。