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企業価値向上へ重み増す健康経営

2022.09.05

健康経営への企業の関心が高まっている。人的資本への投資が従業員のやる気や職場の魅力向上につながるとの認識が広がったためだ。2022年度の健康経営度調査には過去最多となる2869法人が回答、新たに評価結果(フィードバックシート)の公開も始まった。非財務データの数量分析に定評のあるSBI証券のチーフクオンツアナリスト、波多野紅美氏に健康経営を通じた企業価値向上のために取り組むべきポイントなどを聞いた。

SBI証券 金融調査部 チーフクオンツアナリスト波多野 紅美氏
自動車メーカーなどを経て、2010年MSCI入社。三菱UFJモルガン・スタンレー証券などを経て19年から現職

ウェルビーイングは企業の基礎体力

健康経営はESG(環境・社会・企業統治)としての重要な取り組みの一つで、経営者が直視すべきKPI(重要業績評価指標)です。多くの人が、コロナ禍により従業員の健康はリスク管理のうえでも重要だと体感していますが、少子高齢化により人手不足が深刻化するなか、働き手や働き方の多様性を確保しながら、従業員をいかに効率的に有効活用していくかが重要な経営課題になっているためです。
経営のレジリアンス(回復力)という視点から考えると、優秀な人材を確保し、育成することが不可欠ですが、最近では就職先を選ぶ基準として「働きがい」や「働きやすさ」、「女性活躍」などが上位に来ています。働きがいを感じ、企業のパーパスに共感した従業員とともに、組織運営のノウハウを構築し、改善していかないと、イノベーションのための新しい発想が生まれにくくなり、生産性の向上にもつながりません。健康経営にかかわる「ウェルビーイング」や働くことの楽しさといった企業の基礎体力とも言えるこの分野を強化することはますます重要になっているのではないでしょうか。

フィードバックシートで情報幅広く公開

データや情報の開示が進まないと様々なことが前に進まないという意味で、2000社のフィードバックシートが公開されたことは、健康経営という視点で投資先を選ぶスタート地点に立てたということだと思います。2016年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が設立された際には、より投資されたいと考える企業が情報開示に対するモチベーションを高めました。健康経営に関するデータを見ることにより、投資家も健康経営の本質的な部分が分かってくると感じています。
例えば、創業年数が長く、商品開発に行き詰まりを感じている企業にとっては新しい商品を生み出すためにも社内の「マイノリティー」の活躍が重要になります。ポスト・コロナ時代の新たな潮流として、企業が変わることで社会を変える、という視点で健康経営に共感する投資家もいるかもしれません。
ESG関連の既存のデータソースは大手企業中心のものが多いのですが、非財務情報は情報量が少ない中小型株との相性がいいと認識しています。資本効率が高い銘柄でクオリティーを確保したうえで投資をするのが一般的な手法ですが、財務情報を取り除き、ESGの取り組みの評価が高い企業でポートフォリオをつくると非常に強いリターンが出ています。特に社会(S)とガバナンス(G)は統計的にその傾向が強いです。健康経営のフィードバックシートは、クオリティーを精査し、有力銘柄を探すうえでの新たな指標になると思います。こうした点から考えても、フィードバックシートの公開は対象のユニバースが広い健康経営銘柄の幅広いデータ開示という点で注目できるポイントです。

課題と状況踏まえた取り組み発信が不可欠

ESGに関する取り組みを通じて評価を上げたいというインセンティブから活動報告をする企業は多いのですが、株価が上昇する場合と無反応の場合の2パターンがあります。私たちが株式を抽出する際に使うESGモメンタムという指標で分析すると、経営者がESG関連の取り組みをKPIとして掲げていることを評価する項目と株価の上昇に強い相関関係があることがわかりました。一方、キャンペーン的に取り組んでいる場合は投資家から見透かされ、浪費と見られ、スルーされてしまうケースも少なくありません。
健康経営銘柄の分析でも、「経営理念・方針」をセットで見ていくと高いリターンが見えてくるので、経営理念・方針の項目に一番注目しています。企業が投資家向け広報(IR)に健康経営に関する取り組みを発信する際も、自社の課題をしっかりと理解して取り組んでいる活動という点を経営目線で発信することが重要でしょう。
大手運用会社も一つのテーマとして可能性を探っていますが、企業の自己申告をどう客観的に落とし込み、ポートフォリオを組むかなどの点で課題を感じているとの声も聞いています。一方、スポンサーである年金基金からは健康経営のような哲学も運用に組み込みたいという要望は出ているようです。現時点では不良銘柄をスクリーニングする際に使うといったことが考えられます。
企業ごとに状況や課題は異なっており、全ての企業に共通する健康経営のガイドラインというものはないと思います。同業他社がやっているから同じことをするのではなく、個々の企業が自社に即した健康経営に取り組むストーリーを展開することが重要で、投資、企業価値の向上につながる経営戦略であってほしいと思います。よりクリエーティブ、研究開発を促す企業風土づくりのための基礎体力を高めるためにも健康経営の取り組みには期待しています。

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