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健康経営をはぐくむ、組織づくりと外部連携~実践レポート①

2022.09.28

株式会社ネクストビジョン(以下、ネクストビジョン)はIT・システム開発事業を担う企業。同社の健康経営スタート時には、一般社団法人ヘルスケアマネジメント協会(以下、HeCM)を立ち上げたばかりの元看護師振本氏との出会いがあった。プロである振本氏が示す職場の健康、そのしくみづくりや施策、そして、ネクストビジョンの変化、地域や県を巻き込んでの「健康経営」の考え方とは。有馬氏・振本氏の両氏がめざした健康経営の理想像と得られた成果を伺った。

 

すべては、日本一健康的な会社を作りたいという思いからスタート

Q:まず、ネクストビジョンが健康経営に取り組むに至った経緯やきっかけについて教えてください。

有馬 当社は23年前の1999年に、システム開発事業を行う会社として創業しました。私一人で始めた会社でしたが徐々に従業員が集まり、創業10年目ぐらいに最も従業員数が多くなっていましたね。ほとんどのメンバーがシステムエンジニアとプログラマーで、自分自身が目指す事業運営ができていましたが、その一方で24時間働くようないわゆるブラック企業化していきメンタル面で不調を訴える従業員もいました。このような状況の中起こったのがリーマンショックです。数ヶ月の間に仕事がなくなってボロボロになり、従業員に自宅待機や給料の減額をお願いするうちに従業員が125人から63人へと減りました。

私がこの時考えたのは、「63人の従業員のためにおもしろい会社を作ろう」ということです。このおもしろいというのはすなわち「日本で一番、健康的な会社」です。今後は働いて身体を壊してしまう会社ではなく、働くことでより健康になることのできる会社にしたいと思い、健康経営に関心を持つようになったのです。

Q:HeCMからは、いつ頃からどのようなサポートを受けましたか。また、当初はどのような施策を行ったのでしょうか。

有馬 健康経営への取り組みは、はじめは本当に手探りの状態でした。具体的にどのような施策を行えば健康的な会社が実現できるか試行錯誤していた2016年、ちょうどHeCMが発足し振本さんのセミナーを受ける機会を得ました。私の考えとして「健康経営」イコール、身体を動かすように促すことや、コミュニケーションを増やす活動のことをイメージしていたのですが、まずもって指導されたのが「衛生委員会」の運営です。

この衛生委員会の設置は、法律で「従業員50人以上のすべての事業場で設置すること」と義務付けられています。そのためまずは衛生委員会を立ち上げ、正しく機能させることを目標に取り組みを進めました。

Q:HeCMのサポートによって、ネクストビジョンはどう変わりましたか。

振本 ネクストビジョンの健康経営への取り組みをスタート段階からサポートしていて、最も変化したと感じる点は、従業員のヘルスリテラシーが高まったことです。従業員の中にはゲームをして昼夜逆転している人や暴飲暴食する人もいたのですが、毎月HeCMによる啓発活動を行い「睡眠不足は仕事のパフォーマンス力が下がること」を強調することで、少しずつ自らが健康管理するセルフケアの必要性に気づけるようになりました。また、体調不良の際に上司や我々のような存在にSOSを出せるラインケアの体制も整えていくことで、心身に支障をきたす前に予防できるスキルを身につけることができたのではないかと考えています。その結果、ネクストビジョンは休職者ゼロを実現しています。

Q:ネクストビジョンが健康経営に取り組まれた2016年頃は、まだ大々的に健康経営の必要性が叫ばれていた時期ではなかったと思います。HeCMは具体的にどのように活動を広げていきましたか。

振本 私が働き世代の健康に対する意識に何かアプローチできることはないかと立ち上げたのがHeCMです。発足当時は、従業員のヘルスリテラシーと健康管理を目的にさまざまな場所でセミナーを開催しました。そこで要望が多かったのが、身体的な健康に関することよりも、メンタルケアについて教えてほしいということだったのですね。この声に応えるには、研修の場を提供するだけではなく、健康経営に関するコンサルティングが必要だと考え、企業と一緒に仕組みづくりを行うようになりました。仕組みづくりとは、企業で衛生委員会を立ち上げ、課題の洗い出しから具体的な施策の立案、そして評価までの一連の取り組みのことです。このような活動を続けていると、口コミで次第に有益な取り組みだと評価してもらうことが増え、さまざまな企業から依頼を受けるようになりました。

Q:今ではネクストビジョン、HeCMがある広島県は健康経営に対する意識が高いようですね。どのような考え方を持っているのでしょうか。

振本 従来、広島県は全広島県民に向けて健康に対する取り組みを進めていました。その中で県民がライフステージに応じて心身ともに健康で活躍できるには、若い時期からの適切な生活習慣の定着が必要と考えられ、働き世代に特化した部署を「健康づくり推進課」内に立ち上げたのです。今では、広島県と県下13カ所ある広島商工会議所、全国健康保険協会(協会けんぽ)広島支部と我々がタッグを組み、導入セミナーなどの健康経営のための取り組みを進めているところです。協会けんぽとは「ひろしま企業健康宣言」の認定企業数を上げようという取り組みも共に行っています。

県や経済団体などが一丸となって取り組むことが、やはり経営者からの関心が高まる気運にもつながっているのではないかと感じます。これらの取り組みにより、広島県内の健康経営優良法人の認定数も年々増え、また中小規模法人部門の認定数が全国17位(2021年)から9位(2022年3月現在)へと躍進しています。

広島県の取り組みに中心から携わっていく中で、「従業員の健康管理を適切に行いたい」や「従業員満足度を高めたい」という熱い考えを持っている経営者の方が多いと感じています。そのために、従業員が出すSOSに気づくにはどうすれば良いかを考え、ヘルスリテラシーを高めることの重要性や衛生委員会の必要性に気づき行動される方が多いようです。

Q:多くの中小企業の方に、気づいてほしいことはありますか。

振本 企業は人で成り立っているということです。新しい事業やサービスを作って提供したり、テクノロジーが進化したりしても、それを取り扱うのは人である従業員なのです。だからこそ、その従業員の健康について考えていかなければ企業活動は滞ってしまいますし、最悪の場合企業存続の危機に陥ることだってあり得ます。経営者の方々にはお客様と同様に、従業員も大事にすることが重要だと捉えてほしいと考えています。

健康経営成功のカギは、経営者と従業員の「合意形成」

Q:HeCMは企業へどんなサポートをされていますか。

振本 まず、企業に対しては健康経営の仕組みづくりとして衛生委員会の立ち上げをサポートしています。衛生委員会の中に置く社内担当者に向けては、委員会運営のノウハウを伝授し、継続的な活動ができるように働きかけています。加えて、部下を管理する役目を担う上司層には、各種研修やコンサルティングを通してどのように職場環境を改善していくかのアプローチ方法を伝授し、部下層の従業員には、自らの心身の健康に気配りできるように、健康問題に対する知識や対処方法と、セルフケアやラインケアを行う必要性などを伝えています。

これらの社内体制の構築をお手伝いするほか、産業医と企業の橋渡しも行っています。産業医を担当される医師は、病院長など非常に多くの仕事を抱えている方も多いのです。そこで、我々が産業医と企業の間に入り、円滑にやり取りできるよう調整役を担っています。また、必要に応じて専門家を招き、運動指導や栄養指導、メンタルヘルスケアなどプロによる指導が受けられるようにコーディネートも行っています。

私が携わっている企業で言いますと、健康診断の結果が最も悪いのは土木建設業で、次点に運送業が続きます。この業種の方々はお酒やカロリーが高い食事を好まれる方が多く、心筋梗塞や脳梗塞といった危険があるため、とにかく病院を受診するように促しています。ネクストビジョンでも肝機能が高い方は多いです。ただ、これは飲酒によるものではなく、デスクワークや在宅勤務によってお菓子などを食べることが増えたり運動不足が原因ですね。この場合は食事指導や定期的に運動するイベントの開催など、身体を動かす機会を社内担当者と一緒に計画して実施しています。このように、業種や企業ごとに課題が異なるため、はじめに課題を洗い出した上で、衛生委員会と共に解決のための施策を講じています。

Q:企業内では気づきにくいこと、推進しづらいことはどの辺りなのでしょうか。

振本 経営者の方々は、従業員を大事にし、従業員のために何ができるかを常々考えていらっしゃいます。ただ、従業員にその思いが伝わっていないことがほとんどなのです。したがって従業員からは「どうせ売上重視だろう」などと捉えられてしまい、職場でのストレスの原因や離職に至る理由といった本音の部分を話さないままとなってしまいます。両者の「合意形成」ができていないことが健康経営を推進する上での弊害となってしまっているケースも見受けられますね。

Q:HeCMのサポートを受けてみて、気づかれたことはありますか。

有馬 合意形成するという視点からも、やはり従業員の声にきちんと耳を傾けることが重要だと気づかされました。健康経営と聞くと、どうしても「従業員を集めて定期的な健康づくりをすれば良いだろう」と捉えがちですが、必要なのはコミュニケーションのあり方です。従業員は気がついたことを報告すること、上司は従業員が報告しやすいように気遣うことを徹底していくことで、心身の変化にも対応できる環境をつくることができると確信しています。

Q:重点施策の中でも見えにくいこと(コミュニケーション、メンタル不調、ラインケア等)に対し、何か工夫はされていますか。

有馬 ラインケアが必要だからといって、ただ単に相談・報告する体制をつくるだけではよくないですね。例えば、部下が上司に相談する内容によっては経営者には伝えない方が良いこともありますし、社内で実施するストレスチェックなども本人の同意なしに開示してはいけないと法律で定められています。したがって、報告を受ける際に聞き取った情報の中で、共有すべきことや、反対に共有すべきでないことなどを分析してから活用できるように取り組んでいます。

Q:健康経営を行ってみて、手応え・成果などは感じられますか。

有馬 スムーズな運営ができる組織づくりが進みました。自分自身の健康に目を向け、部下をはじめ共に働く従業員の健康にも関心を持つ。そうすることで従業員同士のコミュニケーションが活発になり、健康問題だけではなく、お客様のことや業務上の課題などさまざまな話題がスムーズに情報伝達されるようになりました。健康経営に力を入れることで、会社としての組織力が強くなっていたのです。

そうすると、売上の面にも良い影響が出ました。健康経営に取り組み始めた頃は利益も出ず、なかなか5億円の壁を越えられませんでした。しかしV字回復を遂げ、売上も順調に推移し、過去最高益を更新し続けています。

健康経営への取り組みは経営戦略にもつながっていく

Q:重点施策の中で、特に印象的だったもの・良い手応えを感じられたものはどれでしたか。

有馬 やはり衛生委員会の設置ですね。正直に言いますと、はじめに振本さんから衛生委員会をつくるべきだと指導を受けた時には、何が必要で、どう進めるべきかさえさっぱりわかりませんでした。加えて、法律に則った設置の仕方や社員と企業が対等にやり取りできる場にしなければならないといった知識を理解しておく必要もあったのです。

しかしさまざまな議論を重ねながら衛生委員会を立ち上げ、営業部や技術部などそれぞれの部門から社内担当者を選定しました。社内担当者は、従業員から報告を受けた情報を我々経営者に伝えてくれるようになり、普段気がつかなかったことに目を向けられるようになりました。反対に、我々経営者側の思いや考えも彼らを通じて伝わるようになっていきました。衛生委員会を通して情報がきちんと伝達されることが、正しく機能する会社をつくっていくことにつながっているのだと感じられました。

Q:全国の中小企業の方々へ、健康経営についてお伝えしたいことはどんなことでしょうか。

有馬 私が実際に取り組んだからこそ言えることは、経営者の力だけで健康経営を推し進めるのは難しいということです。振本さんのような専門知識のある方と一緒になって企業が抱える課題を洗い出し、必要な施策を講じていくことで組織を根本から変えられるような健康経営が実現できると考えています。

加えて、産業医との関係性を構築していくのにも、HeCMのような間に立ち調整役を担う役割の力が大きいと感じます。産業医との関係性に悩む経営者も多くいると思いますが、必要なやり取りを専門的な立場から行ってくれることは非常に心強いです。

振本 私が伝えたいことは、健康経営は経営戦略につながるということです。日本においては圧倒的に中小企業が占める割合が多いですよね。そして少子高齢化が進み労働人口も減っている。このような状況において、どの経営者の方も人手不足など数多くの課題に悩んでいらっしゃることは理解しています。だからこそ、一人で抱え込まずに我々のような専門家に相談してもらい、一緒に解決に導いていってほしいなと思います。

Q:健康経営を、中小企業にとって「手応えあるもの」にしていくために必要なことはどんなことでしょうか。

振本 少し厳しい話になりますが、最近は経済産業省が実施している「健康経営優良法人認定制度」の認定を取得するためだけに健康経営に取り組む企業もあります。健康経営の実現ではなく、認定取得が真の目的となってしまっているわけです。見た目を良くするだけと言いますか、スポット的に取り組んでも根本的な課題の解決にはなりません。だから、もっと「この会社をどのような企業にしていきたいか」という目的を明確にして、そのために必要なことを逆算しながら取り組む姿勢を持つことが、手応えを感じるためには必要だと思います。我々がコンサルティングする場合も、この点を非常に重視しており、経営者へのヒアリング、戦略マップづくりから行うようにしています。

そして、何よりもトップ(経営者層)が健康経営に取り組みたいと思うことです。トップの思いは風土をつくります。ネクストビジョンの企業理念は「一期一会」なのですが、私から見ていても、有馬代表取締役が「働いている従業員とは縁があるわけだから、健康管理も含めてきちんと見ていきたい」という思いを強く持っていることが感じられます。いくら従業員が必要性を説いても、決裁や費用を負担するのは経営者ですよね。今いる従業員が健康的に働ける環境づくりはもちろんのこと、今後労働人口がより減っていくことを念頭に、企業を存続させていくためにはどのように働きかけしていくべきかについても考えていくことが必要です。

Q:未来の健康経営や、中小企業を取り巻く環境はどんな風に変わるとより良いでしょうか。

振本 中国地方で健康経営に取り組む企業に「なぜ取り組み始めたのか」を調査したところ、最も多い回答は「従業員の満足度を高めるため」でした。企業の経営者は本当に従業員のことを思っています。ただ、その思いが従業員に届いていない。このような悪循環を断ち切るためにも、健康経営に取り組むことが本当に重要だと思います。

従業員のために、そして企業存続のためにといった目的を明確にして、経営者層と従業員が合意形成する。そしてコミュニケーションによって情報をきちんと相互にやり取りできる社内環境をつくっていく。このようなスモールステップを経て確実な成果につなげていくことが、昔も今も、そして未来にも実現していくべき健康経営の姿であると思います。それを叶えるのが我々の仕事であり、中小企業の方々と共により一層取り組んでいきたいです。

有馬 健康経営への取り組みは、強い会社をつくるためのフレームワークなのです。スタートは従業員の健康のために始めたことが、次第に組織力を高めることにつながって強い会社ができ、結果として業績の向上にもつながっていきます。このことに気がつけたことが何よりもの成果ですし、これから取り組む中小企業が増えていけば良いなと思っています。

そして、経営者は従業員に対する愛情を持つことです。私の場合は、厳しい状況下に置かれた時期に「従業員をこれ以上不幸にしたくない」と思いました。言い換えると、企業の利益だけを目的に進んでいくと、ろくなことにならないということです。従業員の休職者ゼロや売上アップが達成できたのも、従業員の情報や訴えに気づかされる機会が増え、さらに私の経営者としての考えや思いを従業員に伝えることができているからこそだと感じています。健康経営を単なる従業員の健康維持のための働きかけだと捉えず、今後の企業の発展において必要不可欠な取り組みだということを知ってほしいですね。

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