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「健康経営」は人的資本経営の土台

2022.07.15

世界的に「人的資本」に関する企業情報開示への関心が高まる中、従業員の健康など「健康経営®」への注目度が増している。2021年度の「健康経営優良法人」認定件数は大規模法人で対前年度比約1・3倍の2299件、中小規模法人では約1・5倍の1万2255件に上る。経済産業省は5月に「人的資本経営の実現に向けた検討会」の報告書として「人材版伊藤レポート2・0」を公表。同検討会で座長を務めた一橋大学の伊藤邦雄CFO教育研究センター長を迎え、同省の畠山陽二郎前商務・サービス審議官が人的資本経営と健康経営の関係性について対談した。 「健康経営®」は特定非営利活動法人 健康経営研究会の登録商標です。


無形資産重視の時代到来

畠山 人的資本経営という言葉が浸透してきています。

伊藤 先進国では企業価値は既に有形資産ではなく無形資産が決定しています。その中核が人的資本。社員を数や塊として見ると管理志向が強くなり、効率性(エフィシエンシー)ばかりが強調されます。しかしこれからは人材を生かして成果を上げる有効性(イフェクティブネス)の発想へと変えていくことが必要です。多くの無形資産はそれを使う人によって、かつ使い方によって価値が左右されますが、人的資本は環境を整えれば、自発的に自らの価値を高めようとする、主体的で自律的な極めて特異な資本であり、今後は人的資本の価値創造に対する投資競争が鍵になっていくといっても過言ではないと思います。

畠山 人材を企業のコスト要因ではなく、競争力の源泉として企業価値向上につなげようという考え方は当初から健康経営のコンセプトでした。コロナ禍によるテレワークの普及や職場と家庭の関係の変化、また健診データ等の蓄積による健康情報把握が容易になっていく中で、健康経営と人的資本経営の関連性に注目が集っていますね。

伊藤 日本企業の場合、社員の首を切らないという点では社員に優しかったかもしれませんが、社員一人ひとりの個性や境遇、働く環境に個別に丁寧に寄り添ってきたかというと、どうも怪しい。人材はいい環境を提供すれば価値が伸び、放置すれば価値が縮む。だからこそ、企業価値向上を目指す企業経営者には、人的資本の価値を伸ばす役割が求められます。

情報開示など自走始まる

伊藤 健康経営は人的資本経営を進める上で極めて重要な土台を成すもの。5月に公表した人材版伊藤レポート2・0で、「健康経営への投資とWell-beingの視点の取り込み」という項目を新たに追加しました。健康経営認定制度へのエントリー数がかなり増えてきているようですね。

畠山 はい。9年ほど前に健康経営の普及に取り組み始めた当初、推進目的を徹底的に議論しました。企業がなぜ社員の健康増進に取り組むべきなのか、それは単に労務のリスク管理だけではなく、健康という価値が企業価値を高めるための重要なファクターになるからです。まさに伊藤先生の主張されている人的資本の考え方と軌を一にするものです。これまでは調査票による情報収集を基に優良法人認定を推進することに政策の主眼を置いてきましたが、今年3月には情報開示を了承した2000法人分の健康経営度評価を当省ウェブサイトで一括開示するまでになりました。健康経営には資本市場や労働市場からも関心を寄せられており、大企業だけではなく中小企業も含め、企業自らが健康経営への取り組みを能動的に開示するステップ、自走段階に入ったと考えています。

伊藤 時代の大きな流れとして、無形資産の重要性が高まる中で、これまで開示されづらかった非財務情報の可視化、その中でも人的資本に関する情報開示が求められています。投資家などステークホルダーのニーズに応えるべく、内閣官房の新しい資本主義実現本部事務局が主催している「非財務情報可視化研究会」で、有価証券報告書や統合報告書等における非財務情報の可視化に関するルールづくりが進んでいます。私は日本を救う道は人的資本経営の徹底実践しかないと考えています。取締役会でも人的資本について議論してほしい。ガバナンス向上の点でも非常に重要で、企業の自己資本利益率(ROE)にも極めて大きな影響がある。議論の前提には情報の把握が必要ですが、その点、日本は健康経営への取り組みが進んでいるお陰で、豊富な情報やデータが整っていますね。

畠山 2020年度までは、健診・ストレスチェック受診率、喫煙率、運動習慣者比率などの健康経営の実践と、適正体重維持者率や血圧リスク者率などの健康のアウトカムを測定していましたが、21年度は従業員の業務パフォーマンスにかかわるプレゼンティーイズム(心身の不調による生産性損失)やワークエンゲイジメント(仕事へのポジティブで充実した心理状態)などの情報の収集も始めました。また健康経営と株価の相関などの情報も公開しています。蓄積したデータを有効活用するため、今後は個人情報保護を担保しつつ産業医や機関投資家などとも連携しながら精緻なデータ解析を進めていく予定です。

先駆者として世界をリード

伊藤 アリストテレスは「ニコマコス倫理学」の中で「人間の営みの最高善は幸福」だと説きましたが、幸福になることは手段ではなく目的です。幸福の中でも健康は大きな部分を占めています。つまり、経営の目的の一つが社員の幸せを追求することにあり、その社員の幸せの大きな部分を健康が占めているなら、企業価値向上の土台となる社員の健康の保持増進はむしろ経営の目的といえるわけです。先ほど畠山さんが開示について言及されましたが、情報開示には、開示することで初めてステークホルダーが判断できるようになる側面に加え、経営者側に実態をレベルアップさせようとする意欲が高まることで好循環が生まれるという効能もあります。この循環がとても大切です。

畠山 先生のおっしゃる通りで、国内では健康経営はコストではなく投資という考え方が浸透し、中長期的な経営課題として戦略的に取り組む企業が増えてきました。社員の健康の維持・増進は生産性や企業イメージの向上はもちろん、組織の活性化や企業業績の向上なども期待され、社員と会社の幸福の実現にも寄与します。経営者が率先して取り組むべきテーマです。日本が先駆的に取り組んできたこの健康経営の取り組みを、今後は世界に向けて積極的に発信し、日本企業の国際ブランドとなる仕組みづくりを進めて、世界をリードしたいと考えています。

伊藤 日本は気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の賛同企業数で世界トップ。ぜひ健康経営の情報開示でも世界の範となってほしいですね。

畠山 ありがとうございます。価値創造の源となる健康を土台に日本企業がますます活躍できるよう、これからも健康経営を推進していきます。

健康経営優良法人認定事務局

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