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「花粉飛散量の表示ランク」を健康経営施策のヒントに

2024.02.22

企業による「花粉症に対する具体的な支援」は、従業員の生産性低下防止のための重要な取組として健康経営度調査票・申請書にも記載されています。 背景には、花粉症の有病率が年々増加し、花粉の飛散時期に職場での生産性が落ちる従業員が少なくないという実態があります。
こうしたなか、「花粉飛散量の表示ランク」で「極めて多い」という新しい区分が追加されました。そこで、環境省大臣官房環境保健部環境安全課長の𠮷川圭子氏に、「花粉飛散量の表示ランク」更新の狙いや企業における活用方法などを聞きました。

花粉症は放置できない社会課題

近年、花粉症の有病率は大きく増加しています。1998年には2割、2008年には3割、2019年には4割と約10年ごとに10ポイント程度ずつ増加しており、今や3人に1人が花粉症に悩まされています。医療費の負担増も決して無視できません。花粉症を含むアレルギー性鼻炎の医療費は、保険診療費で約3,600億円、市販薬で約400億円にものぼります。

花粉症有病率の推移グラフ

花粉症は、単に生活の質を低下させるだけではなく、職場の生産性にも悪影響を与えるため、個人レベルではもちろん、各企業も主体的に対策を講じていくべき問題だと考えています。国においても花粉症は社会課題として位置づけており、2023年4月には関係閣僚会議が行われ、5月に花粉症対策の全体像が取りまとめられました。政府が掲げたのは、「発生源対策」「飛散対策」「発症・曝露対策」の3本柱に基づく花粉症対策です。現在も3本柱を基本に、各省庁が連携しながらさまざまな施策を展開しています。

国が推進する花粉症対策

 

1.発生源対策

発生源対策として挙げられる施策のひとつが、スギ人工林伐採の加速化です。主な花粉発生源となるスギ人工林は400万ha以上にも及ぶため、計画的に伐採を進め、30年後には半減させることを目指しています。もちろんスギ人工林にも、水源涵養機能、山地災害防止機能や、二酸化炭素の吸収・固定や蒸発散作用等により地球環境を調整する地球環境保全機能など、多くの公益的な機能がある点は考慮しなければなりません。スギ人工林による地域の環境保全効果が失われないよう、単に伐採するだけではなく、花粉の少ないスギなどへの植替えもあわせて行っています。また、伐採・植替えを促進するためには、スギ材需要の拡大を図ることが必須です。そこで「国産木材活用住宅ラベル」の普及を通じて、国産木材を積極的に使用して住宅を建てている企業のPRを推進します。林業における労働力の確保も必要となります。このような取組を進めながら、発生源対策を強化していく方針としています。

 

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(黄色い花芽1つあたり約40万個の花粉が入っている)

 

2.飛散対策

2つ目の柱は、飛散対策です。花粉の飛散状況は、民間事業者がアプリやニュースなどを通じて日々発信しており、多くの人々が頼りにしています。そこで、民間事業者の予測精度を一層向上させ、より正確な情報が国民に届くよう、より精緻な情報を国が調査・提供することとしました。たとえば、スギの花芽状況は環境省・林野庁、スギ林の分布は林野庁、花粉の飛散に影響する気象の情報は気象庁が把握しています。そして、各省庁が持つデータをオープンデータ化し、民間事業者の予測精度向上に役立ててもらっています。同時に、スギ花粉飛散防止剤の実用化に向けた散布技術の開発も主要施策のひとつです。

 

3.発症・曝露対策

3つ目の柱は、発症・曝露対策です。対症療法をはじめとした医療・相談体制の整備を推進するほか、舌下免疫療法治療薬の増産を進めています。また、網戸や衣服類などを対象として、花粉対策に資する商品の認証制度を設け、認知拡大を図っているところです。

 

4.企業に期待する予防対策

加えて、花粉症の基礎知識や予防方法などをまとめたリーフレットなども作成し、予防行動の重要性を訴える施策も多方面で実施しています。特に、企業に対して期待しているのは、空気清浄機の設置やマスク着用の呼びかけ、テレワークの推進といった取組です。また、花粉症を罹患した従業員の通院や薬の購入に対する支援なども、職場の生産性低下を抑制する効果が期待できます。

「花粉飛散量の表示ランク」で予防対策をしやすく

基本的には花粉の飛散量が多いほど、症状は重くなり、患者数も増える傾向があります。しかし、花粉が飛び始める前、もしくは、飛び始めた段階で治療の手だてを打ったり、マスクや眼鏡を着用したりして予防行動をとれば、症状はある程度抑えられるものです。そこで、生活圏内の飛散情報を日々確認する際に、ぜひ役立てていただきたいのが「花粉飛散量の表示ランク」です。

これまでもランク自体は存在していましたが、花粉の飛散量は年々増加しており、最も高いランクを超えるケースが多く見られるなど、きめ細やかに飛散量を伝達できない状態が続いていました。また、実際にそれほど活用事例がなかったことも、見直しに至った要因のひとつです。

そこで、2023年に飛散量の最多ランクをひとつ新設することになりました。更新後は、1平方センチメートルあたりの飛散量が10個未満で「少ない」、10個以上30個未満で「やや多い」、30個以上50個未満で「多い」、50個以上100個未満で「非常に多い」、そして、100個以上で「極めて多い」を加えた5段階のランクとなっています。

 

花粉飛散量の表示ランクは、その日の花粉症対策を講じるうえでの重要な指標です。たとえば、「やや多い」日であればマスクを着用する、「極めて多い」日にはできるだけ外出を控え、テレワークに変更するといったように、日々の飛散量にあわせた対策をとれるようになります。

また、「花粉飛散量の表示ランク」を定着させるメリットとして、飛散量の多寡を判断するひとつの基準ができることも挙げられるでしょう。アプリやニュースで花粉の飛散量をチェックする際に、それぞれの媒体で表現の仕方に違いがあると、飛散量の程度が読み取りにくくなります。しかし、各媒体で発信される情報が「花粉飛散量の表示ランク」に基づくようになれば、その日にどれほどの花粉が飛んでいるのかをひとつの物差しで測れるわけです。

表示ランク自体は統一された基準をもとに運用されますが、花粉の飛散量は地域ごとに大きく異なります。そのため、各地域における表示ランクがどの程度かを確認したうえで、適切な予防策を講じていくことが大切です。

企業目線・従業員目線での花粉症対策事例

職場でできる主な花粉症対策は大きく分けて、花粉を避ける取組と、花粉を室内に持ち込まない取組の2つです。

花粉を避ける取組としては、従業員にマスク・眼鏡の着用を呼びかけたり、花粉が飛散しやすい時間帯の外出を避けられるように、テレワークを推奨したりといったことが挙げられます。気象条件などによってもその日の花粉飛散量は変動するので、「花粉飛散量の表示ランク」をチェックしながら、どのような対策が適切かを判断してみてください。

室内に持ち込まない取組としては、換気システムに給気口フィルターをつけたり、空気清浄機を設置したりする方法が挙げられます。また、従業員一人ひとりが手洗いやうがい、洗顔などを徹底し、身体に付着した花粉を落とすことも大切です。

 

飛散量の多い日にはテレワークを推奨しましょう

 

令和5年度健康経営度調査回答結果によると、職場における花粉症対策の支援として「花粉症にあわせた柔軟な働き方を認めている(花粉飛散量が多い日の在宅勤務を推奨する等)」と回答した企業は19.6%に留まりました。このように、柔軟な働き方が浸透しているとはまだまだいえない状況です。花粉の飛散量が多い日にはテレワークを活用し、従業員の生産性低下の抑制に取り組むことが大切です。

また、保健教育の一環として、花粉症に関するセミナーを開催するのもよいでしょう。すべての従業員が花粉症の知識を持っているわけではないので、手軽にできる対策から対症療法・アレルゲン免疫療法まで幅広く周知を図ることは、花粉症による生産性の低下を防止する有効な手段といえます。セミナーの開催時期は、花粉が飛び始める前の12月頃がおすすめです。事前に従業員のリテラシーを向上させることができれば、花粉の曝露を回避する行動を自主的にとれるようになるでしょう。

もし従業員に花粉症の症状が見られたときには、本人の希望に応じて医療機関を受診しやすくなるよう配慮をお願いいたします。「これまで大丈夫だったから」と放置してしまう人も多いですが、症状が悪化してしまう可能性も否定できません。

なお、花粉症対策に関しては、上述のとおり、環境省と厚生労働省が連携してリーフレットを作成しています。花粉症が発症する仕組みや飛散が多くなる時期、予防・治療方法などをわかりやすくまとめているほか、すぐに実践できる対策も具体的に記載しているので、ぜひ参考にしていただければと思います。

【参考】

花粉症環境保健マニュアル2022
花粉症対策リーフレット
日本花粉学会「空中花粉及び花粉情報標準化に関する基準の見直しについて」
第10回 健康投資ワーキンググループ資料2
花粉飛散情報|日本気象協会
花粉飛散予報マップ|ウェザーニュース
アレルギーについて 花粉症|アレルギーポータル
花粉情報サイト | 保健・化学物質対策 | 環境省

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