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経営者の本気が伝わる、地方中小企業にこそ必要な「健康経営」~実践レポート④

2022.10.27

熊本県で自動車学校を運営する「くまもとKDSグループ」永田氏は元専業主婦。当時は「タバコを数十年吸っている」「昼食はカップ麺ばかり」といった従業員が多く、個々の健康や生活習慣へ目が向いたのは自然なことだった。「現状維持は衰退」「従業員の命と健康を守るのは会社の責務」という強い思いを持ち様々な施策を実行した結果、2017年から6年連続で「健康経営優良法人」に認定された。特に、当時は従業員の反対も多かった「敷地内全面禁煙」の施策は、従業員の健康を想う社長の本気さが伝わる契機となると共に、禁煙環境を望む人々の反響を呼び、入校生・入社希望者の増加にもつながった。

 

健康経営に取り組むきっかけ

くまもとKDSグループ 代表取締役社長 永田佳子氏

Q:まず、くまもとKDSグループの「健康」への考え方についてお聞かせください。

A:「従業員の健康を守ることは、会社の責任である」と弊社は考えます。働く環境は、従業員の健康に多大な影響を及ぼすものであるからです。
一般的に「健康は個人の自己責任ではないか?」という考え方があります。しかし、従業員にとって職場は、ときには家族といるよりも長い時間を過ごすことにもなり、社内環境や企業文化は従業員に大きな影響を与えています。心身ともに健康で人生を楽しめるような会社を作っていかねばと考えています。

Q:健康経営に取り組むに至ったきっかけは?

A:元々、従業員の健康は気にかかっていましたが、生活習慣病に起因した病気で2人の従業員が立て続けに亡くなったことが大きなきっかけです。このとき、経営者として従業員の健康に本気で向き合うことを心に決めました。

当時はほとんどの従業員が喫煙者で、休憩時間にはタバコの煙がモクモクと漂っていました。事務所内の壁面はヤニで汚れ、タバコを吸わない人がお弁当を食べる場所に困るような状態でした。
また従業員の食生活にも目を向けてみると、昼食に毎日毎日同じ揚げ物の弁当、もしくは、ロッカーの中にケースでカップラーメンをストックして食べている人もいました。「その日、自分が好きなものが食べられればそれでいい」という感じで、健康リテラシーは皆無でしたね。
会社として健康診断は行っていましたが、結果を踏まえてのケアまでには踏み込めていませんでした。

健康経営成功の秘訣は「専門家を巻き込むこと」

Q:従業員の皆さんが健康の大切さを理解できた秘訣は何ですか?

A:産業医から理論的に説明してもらったことです。「食事を改善しないと10年後にはこうなりますよ」といった具合です。また、一般社団法人くまもと禁煙推進フォーラムとの出会いにより禁煙に関する専門家セミナーも毎年開催しています。
10年前は、主流煙と副流煙についてもよく知らない従業員がほとんどでした。タバコが体に悪いということが分かっていても、本人の腑に落ちなければ行動に結びつかないのです。そこで、たばこの煙には発がん性のある有害物質が70種類も入っているということなど、従業員全員でレクチャーを受けました。

Q:産業医から従業員へ、実際にどのようなアプローチをしたのですか?

A:弊社では、タバコがやめられない人が多いことが一番の問題でした。産業医から「禁煙は、会社全体で取り組まないと絶対に成功しない」と助言されたことを受け、2017年、敷地内全面禁煙に踏み切りました。
個人個人で禁煙を試みても、周りがタバコを吸っていると、禁煙しようと思っていた心が折れてしまうこともあります。禁煙というのは、きっぱりと止める必要があるということも専門家から学びました。
従業員に禁煙を促すのに一番効果的だったのは、研修で講師に見せられたミミズの実験動画です。ミミズというのは人間の血管の構造に一番似た輪状筋を持っているのですが、タバコの煙を溶かした水をかけると、ミミズはのたうち回って細くなり、死んでしまうのです。この実験動画を従業員たちに見せることで、「自分の血管もこんな風になっているんだ」と想像させることができました。

産業医の選び方、関わり方のポイント

Q:産業医はどのように選びましたか?

A:実はこれまで産業医を3回交代しています。試行錯誤を繰り返し、現在は産業医を専門としている医師にお世話になっています。
以前は産業医との関係性が薄く、どうしても具体的な施策のところまで広がっていきませんでした。
産業医との「付き合い方」が難しいと感じる企業は多くあるようです。くまもと健康企業会セミナーで産業医との「付き合い方」について産業医科大学の森先生に講演していただいたのですが、森先生は「『企業が産業医を育てる』という気持ちで、産業医にいろんな質問をぶつけてください」と仰っていました。企業側としては、産業医に気をつかって何も言えなくなりがちですが、主体的に産業医に意見を伝えることが大切だと思います。

産業医は、従業員と経営者両方にとって頼りになる存在

Q:産業医について「さすが専門家だ」と感じたことはありましたか?

A:弊社の産業医は従業員とのコミュニケーションにも非常に長けた方で、従業員から信頼を寄せられています。健康診断後の個人面談で、従業員のプライベートの悩みやメンタル面の悩みについても相談に乗ってくださっています。従業員の理解者となってくださっているので、ありがたいですね。
また、従業員が長期療養や入院をし、職場復帰する際には、復帰先の部署が本人にとって適切かどうか、産業医に相談することもあります。

従業員の反応は様々だった

Q:当初、従業員の中には禁煙に反発する方もいらっしゃったそうですね。どのようにして乗り越えられましたか?

A:専門家の説明や動画を通して、人間の体のメカニズムについて理解することで、従業員の反発を最小限にすることができたと思います。また、禁煙した人と、元々タバコを吸わない人に、ボーナスという形でインセンティブを付けました。
とはいえ、「嗜好品にああだこうだと言われたくない」ということで会社を去った人も2人いましたが、ほとんどの従業員は、健康経営が従業員のためであることを理解してくれました。
ある従業員が禁煙して半年たったころ、長年のアレルギー性鼻炎が改善して通院の必要がなくなったそうです。40年以上タバコを吸っていた従業員が、「人生が変わった」とも話してくれました。自分の体が変わっていくことを従業員自身が実感し、周囲にも伝わることで、会社全体の健康リテラシーがより高まっていると思います。
現在では、産業医科大学の森先生から「健康文化が根付いている」と言っていただけるほどになりました。

健康経営がもたらした従業員の意識改革

Q:健康経営を推進して、従業員にどのような変化がありましたか?

A:従業員の健康リテラシーが高まり、自分の病名や、飲んでいる薬の名前、飲む目的をきちんと認識できるようになりました。弊社では、健康診断で「要治療」の項目があった場合、きちんと治療や再検査をし、報告書を提出することを就業規則で義務付けています。治療や投薬の内容を報告書に記載することで、病気や薬について正しく認識することにつながっていると思います。
また、従業員自身が健康に関する成功体験を積み、それをさらに健康に活かそうとする良い循環も見られます。産業医に「ヘモグロビンa1c※がこんなに下がりました!」と喜んで報告する従業員もいます。
その他、30年タバコを吸っていて禁煙した従業員がいるのですが、他の従業員だけでなく、お客様や家族にも禁煙を勧め、結果的に10人ほどが禁煙に成功したので、「禁煙インフルエンサー」として社内で表彰しました。
産業医からは「非常に良い形の健康リテラシーの伸び方ですね」と評価していただけて、嬉しく思いました。
※ヘモグロビンa1c:糖尿病の基準値

改善が思うように進まないときは発想を転換

Q:禁煙の他、生活習慣病についても改善を試みているそうですが、状況はいかがですか。

A:タバコをやめることより、生活習慣病の数値を改善する方が難しいと感じています。加齢や体質の問題もあり、数値の維持はできても、改善は思うようにいきませんでした。結果を見て「もうちょっと数値を…」と焦っていたのですが、衛生委員会の従業員に「もし、初期の段階を放っておいたら、毎年誰かが亡くなっていたかもしれませんよ」と言われ、ハッと生活習慣病との向き合い方に気づかされました。今では、数値の改善に固執するのではなく、悪化を遅らせたり、健康的な習慣を身に付けたりすることを重要視するようになりました。

従業員が健康であることで、企業にイノベーションが生まれる

管理栄養士さんの献立による社食は会社が半額を負担。右下は永田氏が県内農家より直接仕入れたベビーリーフのサラダ。※写真は新型コロナ感染拡大防止施策前のものです。

Q:従業員の健康に対してどのようなことに投資していますか?

A:社員食堂での食事代を半額補助しています。また、全員の胃カメラ検診や女性従業員の子宮がん・乳がん検診費用も会社が負担しています。家族が病気になると仕事どころではないので、従業員の配偶者の健康診断費用も負担しています。顧問税理士からは、「福利厚生費が高すぎる」と言われることもありますが、「健康は全ての基礎である」という強い意志を持ってやっています。万歩大会も毎年2回は行いますが、従業員が喜ぶ景品を目標達成者に渡しています。

Q:従業員の健康と、企業の経営には、どのような関係があると考えますか?

A:社会の変化が激しい中で、中小企業の将来性は「どれだけイノベーションを起こせるか」にかかっていると思います。「イノベーションを起こせる従業員がどれだけいるか」が財産になってくるんですよね。
イノベーションを起こすには従業員の意志・やる気が一番大事で、やる気の元となるのは「健康」なんです。
今、社内で「バイク女子チーム」が発足しつつあります。レーサーを目指したいという21,22歳の若い女性従業員がいたので、まずは二輪のインストラクターになれるよう応援しました。すると、会社のTikTok公式アカウントに情報をどんどんアップしてくれるようになり、先日は、「バイク用品のレンタルショップを始めたい」と提案してくれました。自分たちのやりたいことを持ってくるというのが一番いいですね。経営者が思いつかなかったような発想で、事業のフィールドを広げてくれています。

健康が生み出す企業の発展

Q:お客様にも敷地内全面禁煙をお願いすることで、お客様が減ったということはありますか?

A:意外にもお客様の数は減少せず、むしろ逆にお問い合わせが増加しました。「家族に喘息持ちの方がいるので、ぜひ息子を通わせたい」という声が寄せられたほか、「全面禁煙の自動車学校を探していた」とのことで、新潟県から合宿免許のお問い合わせをいただいたこともありました。
入校者には高校生もいますので、高校の先生が見回りに来られることもあるのですが、うちの自動車学校では絶対にタバコを吸えないので、高校からの信頼度や好感度も高いです。

Q:健康経営を推進することで、企業の経営にもメリットがありましたか?

A:売上も伸びてきており、健康が生み出す企業の発展の好循環を実感しています。従業員の健康に投資してきて本当に良かったなと感じています。

健康経営が採用にもたらすメリット

Q:健康経営に賛同して入社する方はいらっしゃいますか。

A:面接で応募の理由を聞くと「健康経営をやっているから、従業員を大事にしてくれるだろうと思いました」と言われることがあります。また、今年内定を決めた3人は、全員卒業生だった方です。弊社はリファーラル採用をリクルート活動のメインにしており、教習で指導員とコミュニケーションをとる中で「KDSを知りここで働きたい」ということで応募してくださいました。

Q:「くまもと健康企業会」という交流会を実施されているそうですが、どういう業種の方が多いですか?また、採用に関して悩みのある企業は多いのでしょうか?

A:「くまもと健康企業会」では、協会けんぽ熊本を中心に健康経営に関する勉強会や情報交換を行っています。参加されているのはほとんどが中小企業で、特に建設業や運送業が多く見られます。弊社に限らず、地方の中小企業にとっては、本当に人が財産なんです。「大学生の応募は地方中小零細企業には来ない」と言われるほど、採用には皆さんすごく苦労されています。そのような企業では、今いる従業員に長く勤めてもらいたいという思いがあります。会社として、健康で働ける心と体でいられるための仕組み作りは大事かなと思います。

心身の健康を守り、「個」の才能を活かせる企業へ

Q:「健康でいられる環境」というのは人によって異なる場合があると思いますが、くまもとKDSグループでは「個」を大事にする取り組みもされているとお伺いしました。どのような取り組みでしょうか?

A:発達障がいをお持ちの方に特化した自動車免許取得コースを5年ほど前に創設しました。引きこもりの方の社会参画の足がかりになればという思いで始めたのですが、自動車免許取得だけではなかなか社会復帰には至らないという現状がありました。そこで弊社は、就労移行支援を行える専門学校「KDSネクストカレッジ」を創設しました。障がいをお持ちの方が自分の特性について自己理解を深め、個性を活かして将来への道筋を立てられるようお手伝いをしています。

これから健康経営に取り組む企業へのメッセージ

Q:これから健康経営に取り組もうと考えている企業へ向けて、アドバイスをお願いします。

A:健康経営企業の認定を得るには、健康経営の指標をチェックリストとして、一つずつできるようにしていくことがおすすめです。
少子高齢化で人口が減少する中、「人財の確保」は特に中小企業にとって大きな課題だと思います。健康経営を推進することで、優秀な人材を集めたり、従業員の流出を防いだりすることができます。
また、生活習慣病の治療にかかる医療費は社会医療費全体の1/3を占めているという現状があります。従業員の健康を守ることは、日本の経済を守ることにもつながります。日本経済を支える多くの中小企業の皆様に、ぜひ健康経営に取り組んでほしいと思います。

 

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