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地域と連携して取り組む、地方中小運輸企業の「健康経営」~実践レポート⑥

2023.01.26

愛知県瀬戸市の大橋運輸株式会社。運輸業の使命である「安全」を守るためには、従業員の健康が最も重要であると考え、自社独自の様々な健康施策を15年以上行ってきた。また、自治体と連携して地域住民向けの健康教室を開催するなど、従業員のみならず地域全体の健康サポートにも力を入れている。 その地道な取り組みが実を結び、経済産業省の「健康経営優良法人」に2017年から2022年まで6年連続で認定、2021・2022年と2年連続でブライト500に選定されている。さらに、健康経営と地域の健康活動が評価され、昨年末に厚生労働省の第11回健康寿命アワードで厚生労働大臣賞 最優秀賞(生活習慣病予防分野)と優秀賞(介護予防・高齢者生活支援分野)のW受賞も果たした。今回、鍋嶋洋行代表取締役社長に、大橋運輸のユニークな健康施策やその成果、今後取り組みたいことについて話を聞いた。

「健康経営」で、運輸業の使命である「安全」を守る

Q:健康経営に取り組んだ背景やきっかけは。

激しい価格競争が繰り広げられる運輸業界においても、企業には安全衛生の意識を持つことが求められています。また、労働人口が減少の一途をたどる中、採用力強化に取り組む必要があります。

そのような背景を踏まえ、弊社は15年ほど前から「健康」に既に着眼しておりました。当時「健康経営」という概念はまだ世の中にありませんでしたが、睡眠、禁煙、メンタルヘルス、運動など、自社で考えた取り組みを一つひとつ行っていました。結果的に、そのような取り組みが「健康経営優良法人」の認定要件項目に当てはまっていたのです。

体が資本のドライバーにとって、現役生活を長く送るためにも健康はとても大切です。また、安全運転にはドライバーの健康が不可欠です。弊社では、管理栄養士による食育指導のほか、契約農家から取り寄せた季節の食材を社員に提供しています。朝食としてバナナやゆで卵、乳酸菌飲料の配布も行っています。

Q: 健康経営に取り組んだ当初、従業員からの反発はありましたか。また、どのようにして乗り越えましたか。

当初、女性従業員を安全課に配置し、ドライバーの安全指導と健康管理を行うことにしました。しかし、当時の弊社はいわゆる「男性中心」の会社であったこともあり、従業員からは強い反発がありました。そこでドライバーに対しては厳しく指導するのではなく、「できているところを認める」形で指導を行うようにしました。

また、従業員からは「食べ物よりも給料を上げてほしい」「バナナなんて、猿じゃあるまいし」「乳酸菌飲料は子どもが飲むものだ」などの反発が出たこともありました。しかし、「バナナはカリウムが豊富で血圧を下げる効果がある」「乳酸菌飲料を飲むと栄養を吸収する小腸に良い影響がある」などの情報を一つひとつ共有していったことで、徐々に福利厚生への理解が進みました。今ではバナナは大変好評で、1日に30本以上用意してもすぐに無くなるほどです。実際に血圧が下がった従業員もいます。 

Q:「従業員の自発的な行動」のために、どんな工夫をしましたか。

メッセンジャーアプリケーションの「LINE(ライン)」を活用し、継続して情報発信することで、従業員に健康意識を浸透させていきました。

当初はLINE登録者が少なかったのですが、登録者限定で景品を配るなどの工夫を行い、現在では従業員の96%が登録しています。社内ウォークラリーの開催についてLINEで周知を行い、歩数についての結果報告もLINEで行っています。その他、健康に関する情報を毎週配信しています。

「治療」から「予防」へ。管理栄養士を採用しての取り組み。

Q: 管理栄養士が在籍して健康に関する情報発信を行っているそうですが、なぜそのような取り組みを始めたのですか。

ドライバーの健康を守るためには、従来の「早期発見、早期治療」ではなく、「予防」が重要だと考えています。治療の段階に入ってしまうと、ドライバーとしてハンドルを握り、働き続けるのは難しいからです。

病気の予防には、食や栄養に関する知識を身につけることが重要です。弊社は、栄養のプロである管理栄養士を従業員の身近に置くことで、知識を増やせると考え、採用しました。

現在の弊社の管理栄養士は中国の臨床医学を学び、予防医学に大変熱意のある方です。平均寿命が長く予防医学に長けている日本を選んで留学し、管理栄養士の免許を取得したという経緯があります。そのような「治療より予防」の観点から情報発信を行い、従業員の知識向上を図っています。

Q:食への取り組みの結果、従業員にどんな変化が起こりましたか。

まず肥満率と喫煙率が大幅に下がりました。また、健康意識が安全意識にもつながり、デジタルタコグラフ※の測定値が改善するという効果もありました。健康の取り組みを通じて、社内の若手とベテランとの交流も深まりました。さらに、若い人からの求人応募が増えるなど、採用活動にも好影響がありました。

※デジタルタコグラフ:運転中の急発進・急加速・速度超過などの情報を記録する運行記録計。

「地域を良くしたい」という強い思いから、思わぬ成果が生まれた

Q:従業員だけでなく、地域の方への健康サポートも行っているのはなぜですか。

運輸の仕事は、「価格=価値」になりやすい性質があります。地域に信頼されることが第一歩になると考え、交通安全や特殊詐欺の啓発活動、川の清掃活動など地域課題の解決のための取り組みを始めました。

また、瀬戸市は愛知県内で高齢化率が高い自治体であることから、地域の健康寿命を延ばすことも地域貢献につながると考えています。弊社は毎週、管理栄養士による無料健康相談を開催しているほか、市民の方向けにバランスボール・ヨガ・太極拳等の運動講座を開催しています。今では自治体などと連携し、大勢の人に向けてセミナーや講座を開催できるようになりました。

Q:地域や自治体との「官民連携」を行うようになったきっかけは。

瀬戸市内で高齢者を狙った詐欺事件が相次ぎ、非常に高額な被害が出たことがありました。その際、弊社から警察署長に「特殊詐欺対策の活動をしたい」と申し出たことが、官民連携のきっかけでした。弊社が啓発チラシを作成し、警察や大手企業と協力して配布を行いました。その後も活動は続き、現在では4作目のチラシを作成しているところです。

このような活動について「中小の運輸業がやることではない」と思う方もいるかもしれません。しかし弊社は、官民が連携し、お互いに力を貸し合うことで、様々な地域課題の解決につながると考えています。

Q:地域貢献に取り組むことで、業績や企業価値に影響がありましたか。

地域貢献に長年にわたって取り組んだ結果、地域からの高い評価を得られ、個人のお客様からの問い合わせが非常に増えました。また、他社との相見積もりを取ることなく「大橋運輸さんにお願いしたい」と言ってくださるお客様が増えました。

警察・市・社会福祉協議会との官民連携も進んでおり、イベントの共同開催を行うようになりました。瀬戸市長が弊社の主催する健康セミナーを視察に訪れ、自らのブログで周知してくださったこともあります。中小企業でも地域課題に挑戦できるのだと実感しており、従業員のモチベーションも高まっています。

そのような取り組みが広まることで、日本全国や海外から優秀な人材が集まるようになりました。

Q:地域貢献の取り組みに対して、従業員の皆さんはどのように感じているのでしょうか。

従業員の幸福度を図る「幸せサーベイ」というアンケート調査を行った結果、「地域に対する思い」という項目のスコアが平均値の2倍もありました。地域を良くするために何かしたいと思う従業員が多く、その輪が広がっていくような企業文化があります。

「いい仲間と仕事をすること」が一番の贅沢

Q:今後、健康経営でより深めていきたい点や推進したい点はありますか。

今後、事業を通じて2025年問題に貢献したいと考えています。2025年には団塊の世代が後期高齢者になる時代が訪れ、その数年後には健康寿命や防災、防犯の地域課題がさらに続出すると予想しています。国が勧めている地域包括ケアシステムのお役に立てるよう、さらに進化させたいと強く思っています。

Q:健康経営にこれから取り組む中小企業にメッセージをお願いします。

中小企業にとって「採用」は最も重要な経営課題の一つです。また、どんな職業でも、健康に起因する事故は避けて通れない問題です。

健康経営は、取り組んですぐに目に見える効果が出るようなものではありません。しかし、10年、15年と長期的に健康経営に取り組むことによって、徐々に副次的な効果が生まれていきます。まずはどんなことからでも良いので、できることを進めていってはいかがでしょうか。私は、利益を上げたり会社を大きくしたりすることより、「いい仲間と仕事をすること」が一番の贅沢だと思っています。

私たちのような中小企業であっても、ビジネスモデルや働きやすい環境を整えさえすれば、大きなイノベーションを起こせます。むしろ、「健康」とは一番程遠いイメージの業種や企業規模の会社が健康経営に取り組むことによって、各方面からの注目が集まります。

私たちの取り組みを様々な企業に模倣していただくことで、それぞれの企業の課題解決につながれば幸いです。

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