健康経営優良法人認定制度とは、職場の健康課題に即した取り組みや日本健康会議が進める健康増進の取り組みをもとに、特に優良な健康経営を実践している大企業や中小企業等の法人を顕彰する制度。日本健康会議による認定法人数は、2023年12月1日時点で大企業2657社、中小企業1万4007社に上る。特に中小企業の申請件数は22年度と比較して約3000件増加しており、着実に浸透してきた。今回実施した健康経営優良法人認定事務局による「就活生・転職者に関する調査」では、健康経営が採用市場においても、大きく作用していることが鮮明になった。健康経営優良法人の認知が就活生や転職者に広がれば、認定を受けた企業の採用にも大きな強みとなりそうだ。
認定の有無、求職層も注視
「就活生・転職者に関する調査」(2023年9月、実施)
健康経営優良法人認定事務局は、企業による健康経営®の取り組みと採用活動との関連性を調査するため、日経リサーチの協力を得て、「就活生・転職者に関する調査」を実施した。調査の結果からは、健康経営優良法人の認定が、就職希望者の企業選びに大きく影響していることが分かった。調査では「働きたい企業の特徴/働きたくない企業の特徴」「健康経営優良法人の取得と働く意思」など28項目を質問。ここでは特に特徴がみられた項目を図示し、以下で解説する。
【調査概要】
調査方法 インターネット調査
調査対象 就活生:20〜29歳の大学3年生以上または大学院生(修士課程)
2024年3月あるいは25年3月卒業予定、卒業後の進路が民間企業や法人、公務員の人
転職者:1年以内に転職活動を行った中途採用者(20〜59歳)
調査期間 2023年8月30日〜9月4日
回収数 900人
男性20代大学生:24年3月卒予定 168人、25年3月卒予定 132人
女性20代大学生:24年3月卒予定 150人、25年3月卒予定 150人
男性中途採用者 150人、女性中途採用者 150人
※「健康経営®」は、特定非営利活動法人 健康経営研究会の登録商標です。
🔷望むのは心身の健康
「働きたい企業の特徴」(選択3項目)では、①給与水準が高い②福利厚生が充実している③従業員の健康や働き方に配慮している④雇用が安定している⑤企業の業績が安定している――の順に高かった。世代に関わらず、働きたい企業の特徴として健康や働き方への配慮が企業選択に影響を与えている。
「働きたくない企業の特徴」という質問でも強い傾向がみられ、健康や働き方に配慮しない企業が全体の2位に浮上した。
「働く環境に望むもの」と「働く環境に望まないもの」(各選択3項目)という質問でも、望むものでは「心身の健康を保ちながら働ける」の支持が最も高く、2位の「職場内の人間関係が良好だ」を上回った。望まないものでは1位と2位が逆転したが、その差は僅かだった。回答者の多くが、働く前提として健康に働けるかを意識していることが伺える。
🔷20代転職者の認知広く
「健康経営の認知度」(選択1項目)については、「内容は全く分からない」人まで含めると、見聞きしたことのある人は全体で48.8%と半数近くを占めた。特に20代転職者では62.0%と高い。
20代転職者で認定制度の内容まで知っている人も48.1%を占めた。企業社会に未参入の就活生でも半数近くが健康経営を認知しており、就労経験のある若い世代は、健康経営や認定取得に対する関心が特に強い。
「健康経営に関する取り組みについて、企業はもっと認知向上に取り組むことが必要だと思うか」(選択1項目)も聞いており、84.4%が必要だと回答した。若い転職者だけでなく、就活生にも内容理解が広がれば、採用市場に与える影響もますます大きくなりそうだ。
🔷会社選びの決め手にも
健康経営優良法人で働きたいかという設問に対しては、「働いている(働く予定)の企業は既に取得している」という回答も含め、認定企業で働きたいと思う人が93.2%と圧倒的だった。
「健康経営が就職先の決め手となるか」(選択1項目)の回答では、8.4%が「最も重要な決め手になる」と回答し、「重要な決め手の一つになる」は52.0%と半数を超えた。20代転職者に限れば2つの回答の合計は74.7%とさらに高く、就職先選択に強く影響することが示唆された。
企業の採用活動において、就職希望者の働く意思や動機は極めて大きな意味を持つ。健康経営優良法人に挑戦し認定実績をもっとアピールすることで、採用成績の一層の向上が期待される。今回の調査結果は、まだ健康経営優良法人認定を受けていない企業に対しても健康経営を採用難克服の一手と位置づけて取り組みを加速させるきっかけを示す形となっている。
健診・育休100%、新卒定着率7割に
――二九精密機械工業(京都市)
二九精密機械工業の社内ミーティングでは笑顔が絶えない。
若手社員が気軽に発言できるのも同社の魅力だ。
働く前提として心身の健康を重視する求職層の意識に答える先駆的な取り組みを実践し、採用にも生かしている企業の一つに二九精密機械工業(京都市南区)がある。1917年創業の長寿企業で、法人化したのは53年。今年は法人となって70周年となる。
主力製品はステンレス精密加工品で、加工が難しいチタン合金やセラミックなどの微細加工も得意とする。半導体製造装置や医療用検査・測定機器、医療用器具、身近なところでは眼鏡のネジや釣竿の穂先なども手がけており、微細加工用機械の自社設計・開発も行っている。15年にはドイツ・フランクフルトに営業所を設けるなど、海外販路も拡大中だ。
同社は2009年の社員100人から現在は283人(正社員平均年齢37歳、女性比率27%)と3倍近くに増え、売上高も新型コロナウイルス禍をものともせず右肩上がりを続けている。17年から21年まで5年連続で「健康経営優良法人(中小規模法人部門)」に認定されているほか、21年以降は連続で「ブライト500」に認定されている。
「健康経営への取り組みを意識し始めたのは15年ごろで、当初は健康と経営という言葉の結びつきに違和感があったが、その後は健康経営が生産性向上や社員のモチベーションアップ、さらにはコスト削減にも寄与するとの認識に変わった」と同社専務取締役の大川智司氏は話す。
「残念ながら先代の社長は健康診断で見つからなかった急性の希少がんで急逝したが、検診から精密検査を経てがんの診断が出た社員8人は全員治療を終えて現場復帰している。食生活の指導も含め、健康は会社の土台づくり。会社の交流サイトやプロジェクトの掲示板などでも健康経営が話題に上ることがあり、社内外を通じて当社の企業イメージアップにも役立っている」(大川氏)
同社の健康診断と再検査・精密検査の受診率は100%だ。現社長の二九直晃氏はホームページの「FUTA・Q流 働き方改革」で、「家庭が一番!仕事はその次!」との想いを語り、従業員が「自分」を大切にできる環境づくりを推進している。
「仕事は代わりが利いても家族に代えはない。家族が健康であれば仕事もうまくいく」と大川氏は補足する。「がんと診断され、会社に迷惑をかけるから辞めるという社員に対して社長は、絶対に会社に戻ってこい。辞めたらあかん!と叱っている」のだという。「健康を土台にすることで、代替要員になれる人材の育成が必要との認識が社員に浸透し、技術の伝承意識も高まった」と大川氏は語る。
中堅企業共通の悩みとして、同社も新卒採用では苦戦しているというが、過去3年間の新卒定着率は76%と決して悪くない。「22年度の育児休業取得率は100%で、男性6人女性1人だった。社内報インタビューでは、男性社員はもちろん社員の家族にも喜んでもらえていることが伝わってきた」と同社経営戦略室・企画部人事総務課課長の光森健司氏は話す。
「出産・育児・介護などのライフイベントで仕事を辞めるのは会社にとっても社会にとっても、何より本人のキャリアにとっても大きな損失。安心して楽しく働ける会社でありたい」と光森氏は語る。
同社は新人や中途社員が働きやすい職場環境作りを意識している。こうした会社の雰囲気は社員全員に浸透し、それは社外にも伝わる。中途採用では国立大学の博士号保有者や修士卒なども採用できており、さらには京都を代表する多数の大企業からの転職組が十数人もいる。
「10月の合同会社説明会に国の出先機関の推薦枠で参加したところ、非常に優秀な人材を1人確保できた。ハローワークのインターネット求人票には昨年6月から健康経営優良法人のロゴマークが利用できるようになり、健康経営についての認知は今後徐々に浸透していくと思う。合同会社説明会でも健康経営枠を設けると、学生も興味を持って面接に来てくれるのではないか」と光森氏は提案する。
実際に、同社の若手社員インタビューでは「行政の表彰実績の充実が応募の決め手になった」と話す社員もいる。健康経営に関する知識がさらに学生へ浸透すれば、健康経営に積極的に取り組む企業が、新卒採用でも選ばれる時代になりそうだ。
2023年12月27日付 日本経済新聞朝刊 健康経営広告特集より転載。記事・写真・イラスト等すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます。
企画・制作=日本経済新聞社 Nブランドスタジオ