「はじめる!長崎健康革命」をキャッチフレーズとして、長崎県全体の健康底上げを狙う長崎県。職場の健康づくりの観点で「健康経営」を推進すると共に、地域・職域連携を活かした健康づくりを呼び掛けました。地域社会においても住民が元気で長く働ける基礎となる「健康経営」は非常に重要です。今回開催された「健康経営®の入門編!ACTION!セミナーin長崎」では、長崎県庁・協会けんぽ・実践企業の登壇に、今まさに健康経営に取り組もうとする多くの企業ご関係者にご来場いただき、会場は満員となりました。本記事では、当日セミナーで登壇者が語った内容をお伝えします。
健康経営推進の意義(経済産業省)
プログラム第1部は「健康経営推進の意義」と題し、経済産業省が登壇。超高齢化や働き方など現代社会が抱える課題から、政策の目指す姿、「健康経営」の位置づけや目的、現状、現時点での投資的評価や職場における効果、取り組み事例などが語られました。
健康宣言をしよう(協会けんぽ 長崎支部)
プログラム第2部では、全国保険協会長崎支部 企画総務グループ長 中村憲政氏(以下、中村)より、長崎県の医療費の現状について語られました。また、健康づくりに取り組む事業所を認定する「健康経営」宣言事業の案内を行いました。
中村 協会けんぽは、約4,000万人が加入している、日本最大の医療保険者です。国民皆保険制度のもとに、誰でもいつでもどこでも医療が受けられる状態を守ることが、協会けんぽの使命です。
協会けんぽ長崎支部の保険料率は10.47%と、全国で4番目の高さとなっています。そのため、事業主の負担も重いものになっています。高齢化に伴い、今後さらに保険料率が上昇することが予想されます。
事業所が従業員の健康づくりを推進することで、県民の健康寿命を延伸できます。また、将来的に発生する医療費の抑制にもつながります。
そのため長崎県と協会けんぽ長崎支部は、健康づくりに関する取り組みを行っている事業所を「健康経営推進企業」として認定し、県民の健康づくりを推進しています。認定事業所には様々なインセンティブがあります。認定までの流れは以下の通りです。
「健康経営」宣言事業所の登録をするには、まず登録票に必要事項を記入後、提出していただく必要があります。登録ご希望の方は、協会けんぽ長崎支部のホームページからダウンロードをお願いします。ぜひ、事業主が先頭に立って、健康づくりに取り組むことを社内外に周知してください。
続いて、生活習慣病予防健診の受診率向上、健診結果を受けての治療の徹底、保健指導への活用などの具体的な取り組みを行っていただきます。継続的な健康増進に向けた事業所内での取り組みも重要です。長崎県は男性の喫煙率は35.3%、全国ワースト4位です。禁煙・受動喫煙対策の強化は特に推進していただきたい施策でもあります。
取り組み内容については、事業所よりシートにて報告していただきます。取り組み内容が優秀であると協会けんぽが認めた事業所には認定証が交付されます。
また協会けんぽ長崎支部と長崎県は、「健康経営」に取り組む事業所へ、以下のようなサポートを行っています。
その他、スポーツクラブの利用特典もありますので、従業員の健康づくりにぜひご活用ください。さらに「健康経営推進企業」に認定されると、長崎県建設工事入札参加者格付において主観点に5点加点されたり、就活情報誌への紹介記事を掲載したりなど、インセンティブが追加されます。
ここで、ご参考までに「健康経営」宣言事業所による実際の取り組み施策例をご紹介します。
生活習慣病予防健診の受診率向上への取り組みとしては、健診費用の支給の他、健診日の特別有給休暇付与、予約・日程管理など、受診しやすい環境を整備していました。
また、健診受診結果を治療や保健指導につなげる取り組みとしては、要検査・要治療になった従業員への早期受診の勧奨および受診後の報告義務化、バックアップ体制の強化、ICTを活用した特定保健指導の利用促進などがありました。
さらに、禁煙・受動喫煙に対する取り組みとして、禁煙外来受診費用や禁煙手当の支給、県が実施する健康講座の受講などが行われていました。
以上のように、費用が必要な取り組みだけではなく、費用ゼロで始められる取り組みも多数あります。まずはできることから始め、スモールチェンジを目指すことが効果的です。
特定健診の実施率などの評価指標を満たす事業所に対しては、健康保険料率を引き下げるインセンティブ制度も始まりました。健康経営の趣旨をご理解いただき、ぜひ登録をお願いします。また、周囲にも「健康経営」宣言事業をご紹介いただき、普及・推進にご協力ください。
<実践企業事例>なぜ健康経営に取り組むのか~ヒューマングループ~
プログラム第3部では企業事例紹介として、長崎県で自動車学校の運営、観光事業、保険代理店業などを展開する株式会社ヒューマングループ専務取締役 内海梨恵子氏(以下、内海)より、健康経営に取り組む理由について語られました。
内海 株式会社ヒューマングループは、来年で創業70周年を迎える、従業員数約50名の地方の中小企業です。弊社は元々、「従業員の働きがい」と「経済成長」の両方が必須であると考え、DXやSDGsの推進と普及活動を行っておりました。そんな中、自然と行き着いたのが「健康経営」です。従業員のパフォーマンス向上を目的として、健康経営に取り組んでいます。
健康経営は、経営戦略であると考えています。また、経営者が自分たちの会社をどのような会社にして行きたいのかという意志の表れだと考えます。
上の写真は創業者である私の祖父母です。祖父は心筋梗塞で、祖母はがんで早くに亡くなりました。さらに父方の祖父も、同じくがんで亡くなりました。身近な親族を相次いで亡くしたことから、我々家族は、健康と長生きの大切さを身近に感じていました。1987年にがん保険を扱う生命保険会社の代理店業を始めたのも、そのような思いがきっかけです。
1989年より、今では有名になった「マインドフルネス」研修をいち早く取り入れたり、全社員で歩数を争う健康イベントを実施したりしていました。
2005年には、自動車学校の禁煙を始め、指導員へ禁煙手当の支給を始めました。
2020年に新型コロナウイルス感染が広がった際には、貸し切りバスの稼働は2割ほどに落ち込み、会社は大きな不安を抱えました。また、自動車学校では密室である車の中で学生さんと接するため、どう対策すべきか分からず、夜眠れないという従業員もいました。そこで我々は、正しい知識をしっかりと身につけ、従業員に安心してもらおうと決めました。自動車学校の学科をオンラインで受講できるという法改正がされたため、我々はすぐに対応に着手しました。
また、社内の見える化に取り組み、従業員とのコミュニケーションを積極的に図りました。
2021年には経済産業省と厚生労働省が認定する「健康経営優良法人」の中小規模法人部門(ブライト500)の認定を受けることができました。
健康経営導入のポイントは、「運動嫌いな人」を健康経営の推進者にすることです。健康経営の推進担当者には、社内でも特に運動が得意な人や、体を動かすのが好きな人が選ばれることが多いと思います。しかし、運動が得意ではない人を入れることで、全社員を置き去りにしない施策が取れると考えています。
弊社では、健康を「心」「カラダ」「仕組み」の3つに分けて考えています。まず「心」、メンタルヘルスについてですが、これは企業がサポートすることで早期発見できます。心のケアを疎かにして病気の状態になってしまうことは、企業にとって非常にリスクが高いです。リスク管理面からも、必須で取り組まなければならない課題です。
次にカラダ(体)の病気についてです。体の病気は、発症してからでは会社はどうすることもできません。そのため、病気になる前の不調に気付き、コントロールすることを目標にしています。体の不調を見える化して、正しい知識を身につけさせ、行動変容を促す仕組みを構築しました。
「仕組み化」にはプロの手を借りました。「夜型の仕事である指導員やドライバーでも、現実的に取り組めることは何か」を考え、改善を行うようにしました。また、食事・睡眠・運動等のテーマに関して、プロ講師によるオンラインセミナーを定期開催しています。さらに、社内のチャットシステムを用いて、自分が何に取り組むかを個々に宣言してもらい、確実に行動につながるようにしています。
このような取り組みの結果、従業員の意識の変化が見られました。昼休みに自主的にラジオ体操を行ったり、敷地内を歩いたり、仕事の合間に楽しみながらできることを見つけて取り組んでいます。従業員からは、「私たちの身体のことを気遣ってくれてありがたい」「研修をぜひ続けてほしい」といった声が寄せられています。経営陣が従業員一人ひとりを大切に思っていることが伝わったのではないかと思っています。
健康経営に取り組む上で、健康経営優良法人などの認定による「見える化」は非常に大切です。弊社はブライト500に認定されたことで、従業員に「うちの会社は、全国で上位500社に入るくらいいい取り組みをしてくれているんだ」と思ってもらえました。
企業が利益を上げるための一番の近道は、今働いている従業員に「働きがい」を感じながら仕事に取り組んでもらうことだと考えます。よく、「健康経営って儲かるの?」と聞かれることがありますが、むしろ健康経営をしないと、企業が成り立たなくなる時代なのではと考えています。健康経営には、多くのお金をかけなくてもできることがあります。私たちの事例が、企業の皆さまの参考になればと思います。
長崎県における地域・職域連携の推進(長崎県)
プログラム第4部では、長崎県福祉保健部の保健師 松本公子氏(以下、松本)より、長崎県が取り組んでいる地域職域連携推進事業について語られました。
松本 長崎県は、「健康ながさき21計画」に基づき、地域と企業が連携して健康増進事業に取り組んでいます。
長崎県は、高齢化が全国より15年早く進んでおり、深刻です。長崎県を支える働き手の確保のため、現役世代の皆さんが元気に長く働くことがとても重要です。
また、長崎県では生活習慣病の患者数の割合が全国平均に比べて顕著に多いです。高血圧と慢性閉そく性肺疾患は全国ワースト2位です。また、県民1人当たりの医療費も高く、全国ワースト2位です。平均寿命と健康寿命の差である「不健康な期間」は長崎県では、男性が8.69年、女性が11.9年です。長崎県は、この期間を短くすることを目標として取り組んでいます。
長崎県の取り組みとして、「職場の健康づくり応援事業」があります。
これは、事業所に専門スタッフを派遣し、事業所で健康に関する指導や講話を行う取り組みです。食生活や運動などの健康に関する5つのテーマの中から1つを選んでいただきます。費用は無料で、専門スタッフへの謝金や旅費については県が負担します。ぜひ活用してください。
長崎県は、元サッカー日本代表の大久保嘉人さんを長崎健康革命のスペシャルサポーターに任命し、働く世代の健康意識向上を図っています。
さらに、長崎県内のスーパーマーケットと共同で、「塩分控えめ」「野菜多め」の食習慣を推進するイベントを開催しています。
長崎県では今後、歩数に応じてポイントがたまるアプリのリリースも予定しています。長崎県の健康長寿日本一を目指して、皆さまの職場でもこのような取り組みに関して認知を広げていただくようご協力をお願いします。
健康経営を企業経営にどう活かすか(健康経営優良法人認定事務局)
セミナーの最後では、健康経営優良法人認定事務局(日本経済新聞社)より、認定制度の概要と企業が健康経営により得られる価値について語られました。
企業が健康経営に取り組む大きなメリットは「企業課題を解決するきっかけになること」「つながりやファンが生まれること」と提言、その点から健康経営を企業の広報へと活かす方法についての紹介もありました。
今回のセミナーは、これから健康経営に取り組む長崎県の企業の皆さまにとって、多くの気づきを得る機会となりました。