企業の実践が社会変える
経済産業省は11月1日、「働く女性の健康支援セミナー」を開催した。同省によれば、女性特有の健康課題による社会全体の経済損失は年間約3.4兆円に上る。損失を防ぐには、企業が有効な対策を講じることが不可欠だ。そこで、セミナーでは女性の健康を意識した健康経営の取り組みを紹介。参加者による意見交換会も実施した。参加者からは「示唆に富む話が聞けた。自社に持ち帰って課題解決に生かしたい」といった声が聞かれた。
経営層のメッセージ重要
セミナーでは、健康経営優良法人2024ホワイト500取得企業が登壇し、女性の健康に関する先進的な健康経営の取り組み事例を紹介した(下記に詳細)。続いて女性特有の健康課題に先進技術を用いた製品・サービスで対応するフェムテックの導入・活用について、企業4社と2つの自治体がそれぞれの取り組みを語った。 その後、会場では参加者をチームに分けて意見交換会を実施した。月経前症候群(PMS)など同じ悩みに共感する女性参加者や、女性の「本音」に圧倒される男性参加者の姿も。業界の垣根を越えて課題を共有した。意見交換後のチーム発表では「導入したフェムテックが従業員に利用しやすくなるように、社内でイベントを開催している」などの工夫が示された。 男性が多い職場の場合、女性の健康課題への関心の低さがハードルとなる。健康経営における女性の健康推進について話し合ったチームは、「取り組みを浸透させるには経営層のメッセージが重要だ」と指摘。入り口は女性の健康であっても、結果的に男性を含む全従業員の健康につながることを訴えることが鍵になると述べた。 最後に挨拶した経済産業省ヘルスケア産業課の橋本泰輔課長は、「先進的な取り組みを広く世の中に発信していきたい」と述べ、ポータルサイト「ACTION!健康経営」などでも配信すると語った。より効果的な健康施策を探るため、2025年度に実施予定の「健康経営における女性の健康施策の効果検証プロジェクト」への参加も呼び掛けた。 セミナー終了後も参加者同士で活発な意見交換が続いた。
女性の健康に関する取り組み事例
積水化学工業 実態見定め施策に生かす
女性の健康を支援することは、人材の定着や管理職の創出などにつながると考えている。さらなる発展的施策の検討の際、既存の調査だけでは不十分だと感じた。 そこで社内の現状を明らかにすべく、早稲田大学・九州大学と共同調査を実施した。チャットアプリを利用して、その日の体調や生産性、出来事などを56日間にわたり回答してもらった。 その結果、20~30代の女性は、身体的・精神的ともに同年代の男性に比べて症状が出やすく変動が大きい傾向がある。40代以上の女性は個人差が大きく、精神的な症状によって生産性が低下しやすいなど、公的調査では知り得ない社内の様子が浮き彫りとなった。 こうした実態に即して次の発展的施策を立案・実行していく。
人事部組織開発・労働政策グループ 健康推進室長 荒木 郁乃氏
ポーラ・オルビスホールディングス 理解と行動促す仕組み
グループの経営管理機能を担う当社は、2017年に健康経営宣言を公表した。グループ健康保険組合の被保険者約4000人を対象に健康経営を実践。被保険者の約76%を占める女性の健康課題へのアプローチを強化している。 例えば子宮頸(けい)がんや乳がん検診を無料で受診できるほか、健康管理センターに婦人科の産業医を配置していつでも相談できるようにした。リテラシーの向上を図り、新入社員研修では将来の体の変化に備えるプレコンセプションケアを始めた。男性従業員も対象として相互理解を促している。 月経・更年期症状に関するオンライン診療プログラムの導入も進めている。治療などの行動を後押しすることで、症状の改善やパフォーマンス向上につなげたい。
HR室 健康経営 タスクフォースリーダー 星野 祐樹氏
明治安田生命 「ひと」中心の経営実践
当社はビジネスの力の源泉である「ひと」を中心とした経営を実践している。全従業員の約9割を女性が占めることから、出産、育児、介護など各人の事情に応じた働きやすい環境づくりを進めている。 女性特有の健康課題のサポートでは、がんの予防・早期発見のために検査費用を全額補助。女性専用の休憩室を用意したり、社内診療所に婦人科外来を設けたりしている。24時間相談できるオンラインサービスなどもある。 こうした取り組みを周知するためハンドブックを作成。本人向けだけでなく、上司向けも用意している。 毎日のパルスサーベイや年1回の意識調査などにより、従業員の声を踏まえた効果検証・高度化にも取り組んでいる。
常務執行役員 人事部長 片山 圭子氏
丸紅 男性社会で改革に挑戦
総合商社は男性社会だ。しかし、これからの時代は女性従業員のパフォーマンスも高めなければ生き残れない。そうした危機感から働く女性の健康課題の改善や職場環境の改革に挑戦している。 社内横断プロジェクトチームを組織し、関係部署から約10人の女性有志が参加して、どのような施策ができるか検討した。社内での試験導入や啓発活動を通じて従業員の声を集め、実際に利用されるサービスの開発を目指した。 現在は働く女性が様々なライフステージで向き合う健康課題を総合的にカバーし、入社からリタイアまで生き生きと働けるようにする総合的なプログラムを実施している。プログラムの利用で問題が改善したかの効果検証や、健康投資効果の可視化なども進める。
フェムテック 事業チーム 野村 優美氏
化粧品業界、連携して活動
化粧品メーカーの保健師チームが2023年に設立した女性の健康支援コンソーシアム「サンテ・エ・ボーテ」を紹介する時間が設けられた。 化粧品業界は女性従業員が多く、各社が抱える女性の健康課題には共通点が少なくない。「共同で課題解決に取り組むことが有用と考えた」と、コンソーシアムの代表を務めるコーセーの保健師・髙木智子氏は説明する。 参加企業の課題を整理し、共通点の多い「若年層」「両立支援」「更年期」の3つのワーキンググループに分かれて活動している。参加企業における健康施策の効果検証にも取り組んでいるという。髙木氏は「様々なデータを分析し、より効果的な施策に生かしたい。女性が多い企業には、健康管理に一層力を入れてほしい」と語った。ファシリテーターを務めたジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループの統括産業医・岡原伸太郎氏は、各社の取り組みが経営戦略に位置付けられている点を評価。フェムテックは「リテラシーを高め、戦略的に活用すべきだ」と述べてセッションを終えた。
サンテ・エ・ボーテ代表 髙木智子 ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ 統括産業医 岡原 伸太郎氏
2024年12月25日付 日本経済新聞朝刊 健康経営広告特集より転載。
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