日本経済新聞 2025/3/11掲載! 健康経営銘柄 発表対談企画
イノベーション起こせる組織か
11回目となる「健康経営銘柄」選定発表にあたり、企業価値やグローバル視点でのポイントについて経済産業省ヘルスケア産業課長の橋本泰輔氏と、ESG重視型のグローバルベンチャーキャピタルファンドであるMPower Partnersのゼネラル・パートナーで、経済協力開発機構(OECD)元東京センター所長の村上由美子氏が対談した。労働力は「体力」から「知力」へとシフトし、投資家は企業がイノベーションを起こせる組織か否かを見る時代、健康経営を通じた組織のイノベーション創出が今後も注目される。
健康への投資 企業価値高める
橋本 「健康経営銘柄」の選定は今年で11回を数えます。投資家のお立場から、村上さんはこの制度をどう評価されていますか。
村上 私は健康経営を「組織の最重要資産である人の健康に投資し、その価値や能力を最大限に高めていく活動」ととらえています。また、それは人的資本経営の一形態といえるでしょう。ここ数年来、このように人の価値向上に軸足を置いた経営は企業価値を高める効果があるとの認識が、各国の経営者や投資家の間に広がっています。健康経営優良法人認定制度は、その認識・評価基準を具体的に制度化し、可視化する仕組みともいえるものですね。企業も、投資家も、この制度をビジネス上のメリットにつなげやすく、例えば企業は、この制度を通じて健康経営に対する意欲や活動を可視化して認知度を高められます。また、投資家は、投資のための有効な指標・材料が得られます。この制度によって企業と投資家の健康経営を重視する姿勢はますます強まっていくと考えます。
橋本 我々も健康経営を人的資本経営の土台ととらえています。人の価値、能力、そして生産性を向上させる源泉は健康であるとの考えからです。そのうえで強調したい点は、健康経営は「人の心身の健康・健全性」を確保する活動であり、それにより企業の「知的生産性」を向上できるということです。
村上 過去20〜30年間のマクロ経済をとらえると、知的生産性を重視した経済活動(知的経済)への大きなシフトが見られています。この流れに対応するうえでは、健康経営を推進し、従業員の「体力」と「知力」の健全性をバランス良く保つことが大切で、またそれによってイノベーション力が高められる可能性もあります。健康経営がイノベーションに直結するとは考えにくいかもしれませんが、私は、この両者はかなり密接にかかわるものと見ています。
橋本 おっしゃるとおりで、今日の健康経営では従業員の「メンタルヘルスケア」が重要なテーマになっていて、それに取り組むと経営者と従業員、従業員同士のコミュニケーションが活発になるという調査結果が出ています。これにより自分の意見を安心して他者に伝えらえる心理的安全性が確保され、イノベーションが起こりやすくなると考えられます。
「成果」、定量的な開示を
橋本 健康経営の成果は企業にとって重要な取り組みですが、投資家視点と結びつけることには難しさを感じている企業も多くあります。投資家のお立場から見て、健康経営の成果を投資家に訴求するうえで、どのようなデータを示すのが有効であるとお考えでしょうか。
村上 例えば「離職率」は有効なデータの一つといえます。離職率は、経営のコストやサステナビリティーに直接的な影響を与えるもので、投資家が重視する指標の一つです。そして健康経営がうまくいっていれば、離職率は間違いなく低くなるはずです。このように、健康経営の成果を投資判断に有効な定量データとして示すことが大切ですし、判断の物差しもさまざまに存在します。健康経営を推進する企業には、その点をご理解いただき、成果を定量的に訴求することに取り組んでいただきたいと願っています。
女性の能力、発揮しやすい環境に
橋本 今後企業が健康経営を推進するうえで重視すべき点はどこでしょうか。
村上 日本の職場はまだまだ男性社会で、就業女性が増えているにもかかわらず女性特有の健康課題への対応策が十分に講じられていません。それが結果的に職場での女性の活躍やキャリアアップ、さらには、女性と男性という異なる感性、価値観、視点、アイデアをもった人同士が活発にコミュニケートすることで生まれるイノベーションを阻害することにつながっています。
橋本 ご指摘の点は、我々も問題視しているところです。
村上 近年の日本では、日本政府の注力により女性の社会進出が進展し、その就業率はOECD平均を超えるまでに高まっています。日本の女性は働いているのです。一方で、これまでは圧倒的に男性社員が多かった中で健康に関する施策も男性に寄りがちで、健康上の課題からキャリアアップの機会が奪われている女性も存在するのが現状です。意思決定層の女性は少なく、また男女間の賃金格差も依然として大きいため、いずれの項目もOECDの下位に低迷しています。その格差をなくすだけで、GDPが2倍近くなるという試算があります。
加えて、ダイバーシティーによって企業のイノベーションが活発化すれば、日本の企業と経済にさらなる成長・発展のチャンスも広がっていくはずです。 その差を解決するために期待できるツールとして健康経営があります。社会に出始めた女性の力を、いかに発揮しやすい環境においてあげるか、企業には健康面からの支援を期待しています。
橋本 そうした明るい未来を実現するためにも、健康問題でキャリアを犠牲にしてしまう女性を可能な限り減らすことが大切ですね。健康経営がいかにこれからの日本企業にとって必須の取り組みかを改めて確認することができました。本日は、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
健康経営銘柄2025に選定された企業はこちらです。
認定企業一覧 – ACTION!健康経営|ポータルサイト(健康経営優良法人認定制度)
2025年3月11日付 日本経済新聞朝刊 健康経営広告特集より転載。
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