一橋大学大学院の安田行宏教授に、経済学や金融の観点から健康経営の意義について寄稿していただきました。
寄稿 従業員の健康施策は「投資」
従業員の健康施策は、コストではなく企業と従業員に利益をもたらす「投資」とする考え方が広まりつつある。一橋大学大学院の安田行宏教授に、経済学や金融の観点から健康経営の意義について寄稿してもらった。

一橋大学大学院 経営管理研究科 教授
安田 行宏 氏
企業価値を向上させると期待
日本社会が高齢化する中、健康に対する意識・関心が高まるのは自然なことだ。ビジネス領域も例外ではない。代表的キーワードの一つが「健康経営」だ。
経済産業省によれば、健康経営とは「従業員等の健康管理を経営的視点で考え戦略的に実践すること」である。従業員の健康投資は活力や生産性の向上を通じて組織活性化や業績改善につながるとされている。
経済学では、健康は人的投資として捉えることができる。
公衆衛生分野では休職による生産性損失を一般に「アブセンティーズム」と呼ぶ。ブラック企業でのうつによる休職や作業現場での外傷休職が典型例である。
他方、健康を害しながら出勤し仕事の効率が下がる場合を「プレゼンティーズム」という。例えば花粉症による不調や睡眠不足による能率の低下はこれに属する。
プレゼンティーズムによる生産性低下による経済的な損失額は、医療費を上回るとの研究もある。
こうした中、日本でも従業員の健康施策は、コストではなく企業と従業員の双方に利益をもたらす「投資」と捉える考え方が広まっている。
経済産業省と東京証券取引所は2015年より「健康経営銘柄」を選定している。受賞企業の株価が上昇することは、実証的に確認されている。
この企業価値向上の要因として、従業員のプレゼンティーズムの改善などが考えられる。つまり健康経営の実践は、各従業員の生産性の向上に資する結果、企業価値を向上させると期待できる。
今後は学際的な研究を通じてこれらのメカニズム解明と政策的含意の提示が求められる。