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2022.10.12

IT業界特有の環境から、8年連続の健康経営銘柄へ~実践レポート②

コンサルティングからシステム開発、ITインフラの構築などあらゆるITサービスを提供し続けているSCSK。「社員一人ひとりの健康は、個々人やその家族の幸せと事業発展の礎である」を経営上の最重要事項として掲げ、IT業界の中でも先駆けて働き方改革や健康経営への理念制定を進めてきた。取り組みの成果を、数値やデータ化することで社員への理念の浸透力を高め、持続可能な働きがいのある職場を実現している。これらの取り組みが奏功して、経済産業省と東京証券取引所が選定する「健康経営銘柄」に8年連続で選ばれ、また「健康経営優良法人(大規模部門)」の「ホワイト500」に6年連続で認定されている。今回、【人事・総務本部ライフサポート推進部長の杉岡孝祐氏】に健康経営が社内に浸透していく過程や企業姿勢、今後取り組みたいことなどについて話を伺った。

 

短期の売上や利益度外視で、社員の健康を守りたいという強い意志

Q:IT業界での健康経営の取り組みは困難だったと思われます。そのような中で健康経営を始められた理由について教えてください。

弊社もIT業界全体が抱えている課題と同様に、約10年前は長時間労働が当たり前となっていました。IT技術者の特性としてシステムなどは24時間365日面倒を見なければならず、社内にも夜遅くまで働く社員や休まない社員を評価する風潮がありました。当時も離職率がそれほど高いわけではありませんでしたが、優秀な社員が業務を一人で抱え込んでしまい、結果として辞めてしまうケースが見受けられました。

2011年に経営統合(住商情報システム株式会社と株式会社CSK)した際、当時の経営トップが朝眠たそうな顔をしている社員や昼休みに机に突っ伏して寝ている社員の様子を見て危機感を覚えたのです。「IT業界にいる我々は、先進的でクリエイティブな新たな価値をお客様に提供すべきであり、働き方を変えて高い業務品質や多様な能力を発揮できる職場にしなければならない」と考え、残業削減などに着手しました。

ここでポイントなのが、「社員の健康を保つこと」を最優先の目的に置いたことです。企業によってはお客様こそが最優先と考えられることもあるかもしれませんが、弊社は社員が健康を保ち、仕事にやりがいを持ち、そして最高のパフォーマンスを発揮することが、ひいてはお客様や株主といった方々の満足度向上につながると捉えました。この考え方をもとに、良い循環を回していこうと働き方改革と健康経営、さらに一歩進んだ「Well-Being経営」の実現に向けて舵を切ったのです。

Q:「休まない社員が良い社員」という風潮はどのように変わっていったのでしょうか。

2013年から「スマートワーク・チャレンジ20」という働き方改革を開始しました。これは全社平均で月の残業時間が35時間、年次有給休暇の取得日数が13日だったのに対して、新たな目標として「月間平均残業時間20時間・年次有給休暇取得日数20日間」を掲げたものです。

引用:「SCSK提供資料」

残業時間の大幅削減を掲げた当時は、いわゆる人月(※)ベースでの取引もまだまだ多く、役員からは「業務時間が減ることでお客様から支払っていただく対価が減少し、売上に影響が出るのではないか」といった声があがりました。ただ、ここで経営トップは「売上や利益が減ってもかまわない」と宣言したのです。社員の健康を害してまで売上や利益が本当に必要なのか考え直し、あるべき正しい状態に一旦リセットすべきだということを訴えました。我々の会社に限ったことではなく、業界全体がマイナスイメージを持たれてしまうことへの懸念や、日本の生産性を含めた物事の考え方を変えていく必要性も見越した上での判断だったのです。

また初年度は、残業削減に対して社員から「仕事が回らなくなりお客様に迷惑がかかる」といった不安から不満も出ていました。経営トップは、自らの考えを手紙にしたため、社員はもとより取引先各社、さらには社員のご家族に対してこの取り組みの理解を求めたのです。お客様としても驚きもあったかと思います。しかし、弊社の本気度が伝わり、次第に「一緒に働き方改革を実現しよう」と協力いただけるお客様が増えていったのです。また、各部署からのヒアリングや好事例表彰制度などを実施することにより、残業を減らしていく上での工夫の仕方や計画的なスケジューリング方法をシェアすることで、次第に社員が主体的に「業務を効率的に進めていくために何が必要か」を考えるようになったのです。休むこともタスクの一つとして組み込み、全体のスケジュールを見ながらお客様に納期などを提案するといった流れが出来上がりました。

その結果、「休まない社員が良い社員」という価値観が次第に払拭されるようになりました。取り組みを始めた2013年度は前年度から平均残業時間を4時間以上減らすことができ、2014年度には目標の20時間以下となる18.3時間まで削減しました。有給休暇取得についても、働き方改革実施前に比べると高水準で休みを取ることができるようになり、現在もその状態をキープできています。

引用:「SCSK提供資料」

(※)人月(人月単価):一人が1か月に行える業務量によってクライアントが支払う報酬を決める方法。

Q:優秀な人材が高度な業務を一人で抱え込んでしまうといったような業務特性がある中、品質を維持しながら改善を進めていくにはどのような工夫をされましたか。

まず、優秀な社員が誰もができるような業務も同時に抱えている場合、それらの業務を他の社員とシェアすることを進めました。加えて属人化を極力排除するために、複数人でノウハウを含めた業務を共有する流れを作りました。これにより、優秀な社員が業務を抱え込みすぎず、残業時間の削減や有給休暇が取得できる環境となったのです。

一方、この段階で一時的にではありますが課長・部長職の残業時間が増加しました。これは改めて個々人がどのような業務を担っているのかを把握し直し、それぞれの役割分担やシェアするべき仕事などを考えていく必要があったからです。ただ見方を変えると、働き方改革と同時に業務改善も行えたことになります。業務を洗い出しながら開発手法やプロセスを標準化することで、若手やベテランに関係なく誰もが仕事を進めていくことができるようにしました。また、プロジェクト進捗のチェック項目についても、社内ルールを明確化することにつながりました。

社員へ利益還元や成果の見える化によって取り組みを深化させていく

Q:取り組みの中で、残業代の還元やインセンティブの設定も行われたそうですね。

残業時間の削減に関して、残業代込みの給与が一般化していた社員からは「収入が減ってしまうから取り組みたくない」といった声もありました。これを放っておいたまま取り組んでしまうと、短期的には残業時間を減らせるかもしれませんが、揺り戻しが起きてしまいます。そこで、2013年度に削減した残業代については、2014年6月の賞与で還元することにしました。当時は全社の平均残業時間が1時間減少すると、残業代が年間で約1億円浮くことになり、これを利益には計上せず、全額社員に還元するわけです。これによって、経営者層が覚悟を持って取り組んでいく気持ちや、利益優先でないことを示すこととなり、全社員が前向きに取り組むためのトリガーとなったのではないかと考えています。その後は、「月平均残業時間20時間」をクリアした上で、裁量労働手当を34時間分支給する裁量労働制の適用拡大など、残業時間の削減が給与に影響しないための施策を講じています。また裁量労働制の対象でない総合職の社員に対しても、20時間分の「業務手当」を支給しています。万が一20時間を超過してしまった場合には、社員の健康を維持するためという意味を込め「健康手当」というネーミングで時間分を支給しています。「残業手当」ではなく「健康手当」とすることで、自分の健康をケアする重要性にも意識を向けてもらいたいという狙いがあります。

その他、2015年から健康に良い行動習慣づくりと健康増進を目的として「健康わくわくマイレージ」を開始しました。これは、日次目標の「ウォーキング・睡眠・アルコール・食生活」などと、年次目標の「歯科健診・喫煙習慣なし」などの行動習慣に健康診断結果を組み合わせ、1年間に達成したポイントをインセンティブとして支給する仕組みです。さらに健康であることに対して「健康ボーナス(わくわく賞)」も設定しました。

よく他社などから「健康経営を進めるためのインセンティブに新たな予算をつくることが難しい」という話を聞きますが、弊社のインセンティブ制度は新たに予算を組んだものではなく、残業代など働き方改革によって削減した経費を社員の健康促進費用へとスライドしたものです。ただ単に「残業を減らしてください」「健康に気を使ってください」とお願いするだけでは社員は腹落ちしません。経営トップや役員が金銭面においてもしっかりと仕組みづくりを行い、訴え続けていくことで、一人ひとりの習慣や行動までを変えられたのです。

Q:健康に対するリテラシーや行動習慣、生産性への手応えはありましたか。

これまでお話したとおり、弊社では社員の健康が事業発展の礎としているため、生産性を第一とするメッセージは出していません。売上や利益が下がったとしても、まずは社員の健康を優先することに努めました。ただし、経営トップとしては一時的な下落があっても、働き方改革や健康経営への取り組みが原動力となり、さらなる成長が見込めると考えていたことは事実です。実際も、働き方改革をスタートした2013年度の営業利益は239億円でしたが、その後右肩上がりで推移し、2021年度には475億円となり、売上や利益が下がることはありませんでした。各種取り組みを進めていくことが結果として生産性や利益の向上につながったとみています。

リテラシーや行動習慣については、「健康わくわくマイレージ」を始めた2015年のタイミングで、健康経営の理念を就業規則に明文化したことでより浸透していったように感じます。他にも、健康リテラシー向上のためにテーマ別のセミナーを開催したり、健康相談やカウンセリングルームを設置したりしました。心身の健康や働きやすさを整えていくことで社員が健康になり、お客様に貢献できるといった好循環が実現し、ようやく手応えを感じることができました。

Q:行動習慣とパフォーマンス発揮度にはどのような関係があるとみていますか。

弊社では、各社員の取り組みや企業全体としての成果がわかるように、毎年、全社員を対象に「健康に関するアンケート」を実施しています。

このアンケート結果を分析したところ、「行動習慣とパフォーマンス発揮度の相関分析」のグラフが示すように「朝食の有無」「運動機会の有無」「睡眠の質」によって、仕事のパフォーマンス発揮度に差が出ていることがわかります。すなわち、「良い行動習慣を身に付けている方が生産性が高い」と言えるわけです。さらに「社員意識の変化」に関しては、2021年度には健康理念の実感度をポジティブに捉えている割合が91パーセント、健康とパフォーマンスの関係実感度をポジティブに捉えている割合が92パーセントにも上りました。社員の健康を守るために始めた取り組みは、今や仕事に対するモチベーションやそれぞれのパフォーマンスにプラスの影響を与えていることが明らかとなっています。

引用:「SCSK提供資料」

Q:働きがい・生産性に関する指標「ワーク・エンゲイジメント」「プレゼンティーイズム(※)」「アブセンティーイズム(※)」について、社内でどのような調査を実施されているのですか。

弊社のワーク・エンゲイジメントは「ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(UWES)9項目版」を用いて調査しています。また、プレゼンティーイズムについては「SPQ:東大1項目版」を採用しています。

現在、さまざまな指標が世の中にはあります。弊社では2018年から文献や資料をもとに自社の取り組みにふさわしい調査方法を採り入れてきました。例えば、ワーク・エンゲイジメントについては2018年度2.80だったものが2021年度には2.90と1ポイント上昇しています。いずれの指標を見ても、働き方改革や健康経営への取り組みを通じて、社員の働きがいやパフォーマンス発揮度が改善されていることが明確であり、引き続きこの尺度を用いて推移を分析していくつもりです。

引用:「SCSK提供資料」

(※)プレゼンティーイズム:何らかの疫病や症状を抱えながら出勤し、業務や労働生産性の低下を招いている状態。健康な状態で発揮できるパフォーマンスを100%としたときに過去1か月で発揮できたと感じる割合の全社平均推移。

(※)アブセンティーイズム:病気や体調不良で社員が会社を欠勤すること。過去3か月において健康上の問題により休暇等で勤務を欠いた時間の全社平均推移。

働きがいのある職場、創造性のある仕事を目指して

Q:健康経営への確かな手応えを感じられている中で、さらに改善したい点や今後取り組みたいことについて聞かせてください。

「健康に関するアンケート」を通じて、課題の変化というものに常にアンテナを張っています。ここ数年は、在宅勤務が増えたことで、これまでの漠然とした疲労感から「目の不調」「肩こり」といったピンポイントのトラブルを抱えている人が増えた傾向が見られます。この結果を踏まえ、今後は、セミナーを通じた支援や健康増進に向けた新たな施策など実際に困っている人を支援できる取り組みを進めていきたいです。

加えて、弊社は毎年250~300人ほどの新入社員と、100人を超える中途社員を迎え入れています。そのため、新たに会社の一員となったメンバーにも健康経営の理念や各種取り組みの重要性を周知して、常に今いる社員が一丸となって取り組める環境づくりをし続ける必要があると考えています。2021年には「SCSK健康白書」を全役職員とその家族へ配布し、健康経営の理念や取り組みを改めて周知する機会を設けるなど、継続的な取り組みを進めています。

Q:健康経営が業績や企業価値に与える影響についてどのように感じていますか。

当初から「売上や利益が下がってしまっても、正しい働き方を取り戻す」という考えのもと働き方改革や健康経営に取り組んできました。これらの取り組みが社員にしっかりと理解され、行動の変化が見られたからこそ結果として、業績に良い影響が出たのだと自信を持って言えます。

企業価値については視点をどこに置くかについても変わってくるかと思いますが、新卒採用に関してだと「最終選考に合格した2〜3社の中で迷っています」という段階で最終的に選ばれる確率が増えたと感じています。もともとある程度の数の学生が応募してくださっていたこともあり、応募者数が大きく増えたということはありませんが、弊社の取り組みを知り、高い意識を持った学生が入社を希望してくださる機会が増えたと感じています。

Q:同じような悩み、課題を抱えている企業に伝えたいことはありますか。

健康経営について推し進める際、まずは社員へ人間ドックや健康診断の受診を促すのがいいのではないかと思います。最初のステップとしてこれらを推進すると、特定保健指導や再検査等により健康保険組合、ひいては企業と社員の負担が増えていくわけです。担当者がいくら必要だと訴えても、経営者層にとっては負担が増大することで心が折れてしまうかもしれません。推進の重要性はわかっていても、この壁を乗り越えなければ取り組みもなし崩しになってしまうのではないかと感じています。

加えて、我々もさまざまな取り組みの成果が出るまでには3年の月日がかかりました。「スマートワーク・チャレンジ20」一つ取っても「社員に意図が伝わるのだろうか」と何度も試行錯誤の上、決まったと記憶しています。良い循環が出来上がるまでには時間がかかるものだと捉え、あきらめずに強い信念を持ち、地道に取り組んでいってほしいです。健康経営に目を向けるきっかけや目的は「学生に選んでもらう企業になりたい」「企業価値を上げたい」などさまざまだと考えられます。ただ「社員がいきいきと働ける職場とは?」と考えた際、どの会社も土台となるのは社員の健康であることは共通しています。まずは「健康ありき」というところからスタートしてほしいですね。

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