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経営課題から戦略マップ作成、女性の健康への着眼と行動変容まで~実践レポート⑨

2023.12.18

【サツドラホールディングス株式会社】大規模/小売業

・「健康経営優良法人2023」に認定。
・保健師を採用して、保健指導など健康への取り組みを内製化。
・婦人科の受診勧奨など女性の保健師だからこそできるアプローチを実現。
・戦略マップを作成して、健康課題・投資から結びつく経営課題までを“見える化”している。

札幌市に本社を置くサツドラホールディングス株式会社は、地域医療対応型ドラッグストアチェーンを展開する株式会社サッポロドラッグストアーなどをグループに持つ。1972年の創業から掲げる「健康で明るい社会の実現に貢献する」を実現すべく、積極的に健康経営に取り組んでおり、「健康経営優良法人2023」に認定されている。認定要件の一つ「女性の健康保持・増進に向けた取り組み」の内容も高く評価されている同社で、各種施策の計画・実行などを担当する人事部の保健師に、これまでの道のりや今後の健康経営について話をうかがった。

専門職の知識・視点をフル活用。健康課題を洗い出し、従業員に向けてアプローチ

Q:いつ頃から健康経営に取り組み始めたのでしょうか。

弊社の代表取締役社長CEO、富山浩樹が他社の経営者と交流する中で、健康経営の必要性について話題になることが増えた時期が2019年です。それまでもウォーキングイベントや敷地内禁煙などに取り組んでいましたが、2019年から私たち保健師を採用して、生活習慣病予防健診や精密検査対象者に向けた保健指導の完全実施などを推し進めるようになりました。協会けんぽ北海道支部や各グループ会社の健康推進担当者などと連携して、それぞれの施策やサービスが全ての従業員に行き渡るような体制も整えていきました。

また、弊社の特徴は、女性従業員が70パーセント以上を占めることです。ただ、社内調査で男性従業員よりも女性従業員のプレゼンティーイズム(欠勤には至っていないが、健康問題が理由で生産性が低下している状態のこと)が低下していることが浮き彫りになりました。そのため、健康診断のデータも踏まえて、5つに絞った健康課題の中に「女性の貧血対策」「婦人科系疾患による労働力の損失」といった女性特有の健康問題に関する事項を取り入れました。

Q:貧血対策を行った背景や施策を教えてください。

ドラッグストアの業務では、飲料や洗剤など重いものを運ぶ機会が多くあります。「体力がもたない」「力が入らない」という従業員の声から健診のデータに着目したところ、血中のヘモグロビンの数値が低すぎる従業員が複数いました。しかし疲れやすさの原因が貧血だとは思わず、「歳のせいだから」「体力がないから」と自覚していたのです。治療した方が良いレベルなのに誤った自己判断で長く放っておいてしまうという、保健師からすれば信じられない状況でした。会社にとっても生産性の低下につながる重要な課題であるとすぐにわかりました。治療すればこの問題は軽減できます。そこで、健診のデータで貧血に関する受診勧奨を強化し、さらに軽度貧血域にいる対象の従業員に健康教育と鉄サプリメントの支給を行いました。2021年度、22年度のデータを比べると、27名いた軽度貧血域の従業員のうち、18名に改善が見られました。今後は、鉄サプリメントを支給したり、昨今話題となっている5-ALA(ファイブ-アラ)を取り入れたりと貧血改善に向けた支援をワンランクアップさせたいと考えています。

Q:御社は、社内に保健師を配置して女性の健康に対する施策を進めています。具体的にメリットを感じる点はありますか。

従業員の健康診断等のデータを把握して、直接保健指導ができる、すなわち健康経営への各種取り組みが内製化できることが最大のメリットだと考えています。また、保健指導についても、ポピュレーションアプローチ(集団に対して広く指導する)ではなく、個々に対して健康診断等のデータに基づいたハイリスクアプローチ(健康リスクが高い人を対象とした取り組みをする)が可能です。

もう一つは、女性同士だからこそ受診勧奨しやすい点です。女性従業員が月経前症候群(PMS)の時期に何日も会社を休んでしまうケースでは、上長が男性の場合、「婦人科で診てもらった方がいいよ」とはなかなか言い出しにくい状況でした。そこで、私たちから婦人科を受診することでPMSの改善が期待できることや低用量ピルの服用で症状が緩和できることなどを説明する機会を設けました。このような細かい気づきや働きかけが、ひいては健康問題を理由とする離職を防ぐことにもつながると考えています。

 

Q:大変だったことは何ですか。

取り組みが軌道に乗るには時間がかかりました。健康経営の取り組みをスタートした頃は、健康診断の受診率が約70パーセントでしたし、従業員に「なぜ保健師から保健指導を受ける必要があるのか」をなかなか理解してもらえないもどかしさもありました。

当時は、私たちが医療職であることを周知しつつ「健康に働き続けるためには健康診断を受けよう」「精密検査が必要となった人は、健康管理をしっかりと行おう」ということを辛抱強く訴え続けました。

 

Q:取り組みに対して、従業員からはどんな反応がありましたか?

取り組みの一つとして、定期健康診断に子宮頸がん・乳がん検診無償化をプラスしたり、35歳以上は生活習慣病予防健診に変更したりして健診そのものを充実させたことがあげられます。これらの検診予約も会社が行い、従業員の負担をなくしました。「仕事を調整して自分で病院を受診する手間が省けた」、「無料でオプションの検診を受けられて良かった」という声はよく聞かれます。また、今では保健指導を受けることを拒む人はいなくなりました。従業員のヘルスリテラシーが向上し、健診や検査の必要性が理解されてきたことを実感しています。

健康経営への取り組みをロードマップ化。経営課題の解決へとつなげる

Q:御社の「戦略マップ」はいつから作成していますか。また、誰が担当していますか。

健康課題から健康投資、それに伴う効果と最終的な経営課題の解決を“見える化”した「戦略マップ」を、2022年から作成し始めました。2019年の開始当初は健康診断などの各種データが紙ベースで健康課題の分析などが難しい状況でしたが、健康管理システムを導入したり、年々データが蓄積されたりすることで、弊社がクリアすべき課題が浮き彫りになってきました。同時に、健康経営優良法人の認定を目指すにあたり、課題と施策を皆で情報共有する必要が出てきたため、5つの健康課題の設定などを含めて、ロードマップを私たち保健師が作成しました。

参考:サツドラホールディングス株式会社 健康経営宣言

Q:戦略マップを作成する際に、押さえるべきポイントはありますか。

弊社では前年度と本年度のデータを比較しながら優先課題と施策を絞っていったのですが、この作業が本当に大変でした。戦略マップに載せようと思えばいくらでも課題は抽出できます。ただ、全ての課題に取り組めるわけではないので、「自社にとって解決すべき重要課題は何か」を絞っていくことが重要だと思います。弊社では私たちが課題の優先順位を決めた上で、安全衛生委員会が審議して最終決定する流れを採用しています。

健康改善のためのテーマは今も昔も同じ。従業員の健康増進に向けて施策をアップデート

Q:今後、取り組みたいことについて教えてください。

私たちの重要課題は、「喫煙率の低下」「貧血改善」「運動習慣のある人の割合の増加」の3つがテーマとなっており、これは不変のものです。テーマを頻繁に変えるのではなく、継続的に見ていきながら、PDCAを回すことが大切だと考えています。ただ毎年、健診データやアンケート調査の結果を踏まえながら、解決につながる施策や取り組み内容などは少しずつアップデートしています。

例を挙げると、近々、月経による不調などを防ぐ目的で、オンラインによるピル処方の費用を半額負担する制度を開始する予定です。さらに、脳ドックの費用補助や年齢に関係なく子宮頸がん・乳がん検診が受けられるような制度の整備、男性の更年期について理解を深めていく機会の設定などを計画しています。また、これまで新入社員研修や店長になる前の研修などで男性従業員にも女性の健康問題についての啓発を行ってきましたが、来年以降は、この取り組みを部長クラス以下全従業員に拡げて、業務の一環として学べるよう、短い動画を作成する予定です。

 

Q:健康経営に取り組んで良かった点は何ですか。

今回、弊社が「健康経営優良法人2023」に認定されたこと、また認定を受けた企業のうちドラッグストア部門では8社(結果を公表した企業)中2位、北海道内の企業54社(同)中11位と想定以上に高い順位だったことを社長はもちろんのこと、従業員一人ひとりも喜んでいます。

このような結果や女性に特化した取り組みなどは、新卒採用ページでも紹介できるようになりました。弊社のブランディングにおいても、新たな企業価値として認識していただいているようです。

Q:健康経営、特に女性の健康問題について取り組みたいと考えている企業に向けて伝えたいことは何ですか。

女性の健康問題については例えば「PMSで困っている人がいる」ということを把握するだけではなく、一歩進んで、婦人科への受診勧奨など「解決するための方法」を提示してあげる体制づくりが必要です。そのような環境を提供できることが、結果として女性が長く働ける職場づくりにつながると思います。

私たちも数年かけて健診データなどが集まり、やっと自社の状況や施策に対する効果が見えてきたところでまだ道半ばです。ただここまで取り組んできてわかることは、健康経営に取り組んだからといって全てがすぐに好転するわけではないことです。だからこそ取り組み続けて、健康経営の重要性を組織風土として根付かせることが重要だと考えています。これからも、従業員のさらなる健康向上に向けてまい進していきたいです。

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