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ホテル業界こそ健康経営を、従業員の健康がお客様を笑顔にする~実践レポート⑤

2022.12.21

1964年、東京オリンピックの開催に合わせて創業したホテルニューオータニ。同社は、創業者である大谷米太郎氏が大切にしていた「謙虚なおもてなしの精神」「日本の自然を愛する心」を受け継ぎ、お客様と従業員両方の幸せを持続できるホテルを目指している。従業員のための様々な健康施策を推進することに成功し、健康経営優良法人認定の大規模法人部門「ホワイト500」にホテル業界で初めて認定された。また、従業員の女性比率が高い同社では、女性特有の健康問題に対する理解をいち早く促進しており、男女問わず働きやすい職場づくりを実現している。今回、ホテル業界で健康経営を始めるにあたっての課題や、健康経営により得られた効果などについて同社に話を聞いた。

健康経営を始めるまで

Q:健康経営を始めた理由やきっかけを教えてください。

当ホテルには元来、自然や環境を大切に思う企業風土があり、それが健康経営を始める土壌となりました。

ホテルニューオータニ(東京)のシンボルである約1万坪の日本庭園は、ホテルが建設されるよりずっと古くからこの地に存在しました。「この由緒ある日本庭園を後世に残したい」という創業者の強い思いから、庭園を囲むようにしてホテルを建設したという経緯があります。

この庭園のメンテナンス係は、ほとんどが当ホテルの元従業員です。創業者の信念を受け継ぎ、誇りと思い入れを持って働いています。

四季折々の装いを見せる日本庭園はホテルマンが自ら整備している他、館内レストランから出る食品残渣を循環させた有機堆肥、厨房排水を中水化した潅水で維持されています。2021年にはサスティナブルな日本庭園を散策し、庭園係がご案内する「日本庭園見学ツアー」も実施しました。

また当ホテルでは「SDGs(※1)」が叫ばれるずっと以前から、ホテルから出た生ごみを堆肥化し、そこで育てた果物や野菜を従業員食堂で出す、という取り組みを行っておりました。会社として非常に高い健康意識を持っていたことが、従業員の間に健康意識を浸透させられた理由となりました。

(※1)SDGs(Sustainable Development Goals):持続可能な開発目標

 

Q:健康経営を始めた当初、どのような課題があったのでしょうか。

健康経営に取り組み始めた4~5年前は、「24時間365日営業のホテル業界で、健康経営に取り組むのは無理だ」という意見もありました。「やめたほうがいい」と反対する人も、もちろんいました。そのような中で当ホテルが健康経営に取り組んだ理由は、「リーダーシップを取ってホテル業界をけん引したい」という思いがあったからです。

ホテルニューオータニ(東京)は、「フォーブズ・トラベルガイド(※2)」で「エグゼクティブハウス 禅」の5つ星と「ザ・メイン」の4つ星の合わせて9つ星を2年連続で受賞しました。従業員がそれほどのパフォーマンスを発揮しつづけるためには、やはり個々の従業員の健康が大事であると考えます。従業員の下支えとして健康経営を推進していった結果、ホテルニューオータニはホテル業界で初めて「ホワイト500」の認定を頂くことができました。

(※2)フォーブス トラベルガイドは権威ある5つ星の格付けシステムを世界で初めて導入したトラベルガイド。専門調査員が800項目以上の厳格な審査基準に基づき、世界中のラグジュアリーホテル、レストラン、スパを審査·評価している。

 

従業員食堂での様々な取り組み

Q:健康を推進する上で「食」に着眼された経緯を教えてください。

「健康」と「食」は深くつながっており、切っても切り離せないものです。当ホテルの場合はお客様へご提供する「食」に加えて、従業員へ提供する「食」も以前から常に研究している分野でした。従業員へ食の大切さを周知する場所として、従業員食堂が分かりやすくてよいと考え、管理栄養士を交えた相談のもと、従業員食堂のメニューに「スマートミール(※3)」という健康食を提供することにしました。また、乳酸菌飲料を推奨し、従業員の免疫力向上を図っています。

(※3)スマートミール:健康づくりに役立つ栄養バランスのよい食事の通称。厚生労働省の定める栄養の目安に基づく。

ニューオータニ5大豆ミート

Q:数ある中から「スマートミール」を導入したきっかけは?

当ホテルにはお客様に提供する料理のメニュー作成に従事する管理栄養士の他に、従業員食堂を担当する管理栄養士もいます。

定期的に開催している栄養士とのミーティングで、「スマートミールを導入しては」という提案があったことがきっかけになりました。やはり、従業員食堂の管理栄養士はそうした情報収集や健康を意識した食事・食環境への促進に意欲的であったと感じています。当ホテルの従業員食堂はスマートミール最高位の3つ星認定を取得しており、この食堂の食事を通じて、栄養バランスの意識づけや食生活改善に向けたきっかけの提供にもつながっています。

 

Q:スマートミールや乳酸菌飲料提供等の取り組みに対し、従業員の反応はいかがですか?

スマートミールは健康食なので、やはり野菜が多めだったり、ボリュームがちょっと少なく感じたりします。そのため、男性や食べ盛りの方からは「ちょっと足りないのでは」という意見もありました。

そこで、小鉢の種類を増やし、選べるように工夫をしました。好きな小鉢を選んで1つのトレイに収まるように配置すれば、スマートミールが完成するようになっています。

スマートミールは特に女性の従業員に喜んでもらえましたね。「ダイエット」ではなく、「健康に良い」と表現することで、抵抗感なく自然と手が伸びている感じがします。

 

女性の健康への着眼

Q:従業員の健康の中でも、特に「女性の健康」へ着眼した理由は何ですか?

当ホテルでは全従業員のうち、女性が4割を占めており、会社として、女性従業員の笑顔をずっと守っていきたいという思いがあります。

男性も女性も外で働く時代であるとはいえ、女性が元気でいられることで、ご家族も安心していただけると当ホテルは考えました。そこで、当ホテルの健康保険組合とも連携し、女性の健康にもフォーカスしようということになりました。

 

Q:健康経営を推進する前と比べ、結婚・出産を経て復帰する女性は増えましたか?

はい、とても増えました。現在では、多くの女性従業員が妊娠・出産を経験しているのではないでしょうか。退職するケースはほとんどなく、皆さん、職場復帰をして今では家庭と職場の両立を実現しております。実際に先日、ママさんで課長に昇進された方もいます。子育てしながら働く多くの先輩達を実体験として目にすることで、若い従業員の心理的安全性(※4)も高まっていると感じます。

(※4)心理的安全性:組織の中で周囲から非難や拒絶を受ける不安がなく、自分の考えを発言できる状態。

 

Q:女性従業員の働き方やキャリアにはどのようなものがありますか?

女性従業員はベルガールやフロントなどを希望される方が多いです。お客様の前で素敵に立ち居振る舞いおもてなしすることを楽しみながら仕事をしている方がほとんどです。

また弊社では近年、女性の管理職が増えてきています。ホテルニューオータニ東京本館の11・12階には、「エグゼクティブハウス 禅」という87室の特別室がありますが、3代連続で女性が支配人を務めています。また現在、ベルマン・ベルガールのトップである課長職にも女性が就任しています。

当ホテルでは、幅広いお客様にご利用いただいており、国際的な会議などで来日したお客様のご対応をすることもあります。あらゆるお客様からの多岐にわたるご要望にもきめ細やかなサービスで、お客様から信頼をいただいている優秀な女性従業員が多くいます。

Q:女性特有の健康問題について、男性従業員にはどのようにして周知をしていきましたか。

女性従業員をサポートするためには、特に上長の男性たちがしっかり理解をしなければいけないと考え、eラーニングで女性の健康についての研修を行いました。eラーニングで見ていただくことで、対面で研修を行うよりも内容がしっかり伝わりました。

また、男性従業員の奥様にもHPV(※5)検査キットを配布しています。男性従業員が、ご自身の奥様の健康を意識することで、結果的に職場の女性の健康にも目が向けられるようになりました。

(※5)HPV(ヒトパピローマウイルス):子宮頸がんの原因と言われているウイルス

 

Q:ヘルスリテラシーが高まったことにより、従業員の行動にどのような変化がありましたか。

女性の体調不良に対する理解や、子育て中の女性への理解がとても深まりました。シフト制の勤務ですが、皆で助け合いながら突然の休みにも柔軟に対応できており、その空気が職場全体に伝わっています。

女性の健康についてのeラーニングを受講した男性従業員からは「知識が抜けていた部分があった」という声や、「次はこういうところを理解してあげたい」という声が寄せられ、女性従業員のサポートに入る姿勢が見られるようになりました。

弊社の健康保険組合には、女性担当者が対応する相談窓口を設けています。そのため、女性の健康に関する相談がしやすい環境です。もし、健康への理解が遅れている人がいた場合でも、産業医2名、看護師2名によるフォロー体制がしっかりできているので安心です。

 

 

日本のおもてなしは、「お客様の笑顔を見たい」と思える健康な心身から

Q:「健康経営」に取り組んでみて、どのような点に効果を感じますか?

従業員が楽しく仕事をすることで、お客様へのサービスのパフォーマンスが向上しました。従業員食堂で美味しく健康的なメニューが提供されることで会社に来るのが楽しく、気持ちが高まり、「お客様にも楽しんでもらおう」という気持ちにつながります。さらに、その様子を見ている仲間が、「よし自分もやってみよう」と、どんどんいい循環が生まれるんですね。

Q:ホテル業界が「健康経営」に取り組むにあたってのアドバイスをお願いします。

ホテルで働く人は皆、お客様に喜んでいただきたくて働いています。そんな従業員の力を最大限発揮できるよう、健康面で下支えしていってはいかがでしょうか。

「ホテル業界だから」という理由で最初から諦めないことが大事です。我々の業界では、お客様向けの情報発信にのみ力を入れがちです。しかし、従業員にも目を向け、健康に関する情報発信をしていくことで、大きな効果が生まれます。ぜひホテル業界にも健康経営にチャレンジしていただきたいです。

 

Q:今後、「健康経営」でより深めていきたい点、推進したい点はありますか?

現在、コロナ禍でなかなか実現できていませんが、社内スポーツ大会の開催を増やしていきたいですね。

また、「ホワイト500」は現在のところ東京・大阪・幕張の3事業所で認定をいただいたので、全国の他拠点とも切磋琢磨し、健康経営を進めていきたいと考えています。

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