宮城県は、東北地域の中でも特に健康経営に取り組む法人数が多く、「健康経営優良法人認定2023」認定数は、349社(2023年増加率131%)でした。企業が様々な健康課題を改善しようと、自治体や協会けんぽが主導する施策やイベントに参加。そこから一層リテラシーが高まり、従業員の心身の健康がパフォーマンス向上や組織力強化につながる点に気づいた企業・団体が増えているようです。
2023年8月1日(火)、宮城県仙台市で「地域で活かし、地域で広げるACTION!セミナー in 仙台」が開催され、宮城県だけでなく隣県からも健康経営に関心を持つ多くの方々が出席されました。本記事では、当日セミナーで登壇者が語った内容を紹介します。
・経済産業省
経済産業省からは、現在の国の動向や政策を踏まえた中での健康経営ついて説明。健康経営の効果等についてはデータの明示もありました。
・協会けんぽ宮城支部
県内の健診データ統計を持つ協会けんぽ宮城支部は、宮城県の健康課題や医療費の状況と「職場健康づくり宣言」について説明。「職場健康づくり宣言」の登録事業所への各種サポートや健康経営優良法人認定に向けたサポートについても紹介されました。
・白石ポリテックス
3年連続でブライト500に認定されている白石ポリテックス工業。健康経営に取り組んだきっかけやそのメリットについて具体的に語られました。「社員の幸せ」を経営方針に掲げ、健康経営に取り組んでいることが奏功しています。
・宮城県庁
宮城県の健康課題の詳細、その解決のための様々な施策が説明されました。宮城県の施策の一つである「スマートみやぎ健民会議」では、保険者・企業・医療関係団体等と連携した取り組み。健康経営の普及や県民の健康づくりの推進に貢献しています。
・健康経営優良法人認定事務局
健康経営優良法人認定事務局として、日本経済新聞社からは今年度の申請に係る改定ポイントやインセンティブの活用について説明がありました。
地域における健康経営の推進について(経済産業省)
プログラム第1部は、「地域における健康経営の推進について」と題し、経済産業省が登壇。健康経営を推進することで見込める効果について、データや取組事例による具体的な話がありました。健康経営を実践することで、インセンティブ(補助金・融資・優遇措置等)といった地域内で企業が評価される動きが出てきていることや、企業同士の連携事例について紹介。今後の展望として、健康経営の効果分析や健康経営を支える産業の育成等があげられ、健康経営を通じて企業と地域経済の双方の活性化が見込まれることが語られました。
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協会けんぽ宮城支部による健康経営の取組(全国健康保険協会宮城支部)
プログラム第2部では、協会けんぽ宮城支部 蛭田悠平氏(以下、蛭田氏)より、宮城県の健康課題や医療費の状況と「職場健康づくり宣言」について説明がありました。
蛭田氏 2008年に設立された協会けんぽは、約256万事業所、約3,944万人の加入者がいます。宮城支部では43,251事業所、約70万人の加入者がおり、地域の医療差を反映した保険料率は、全国平均よりも高い10.05パーセントとなっています。下の図を見て分かるとおり、協会けんぽの財政は医療費(保険給付費)の伸びが賃金(標準報酬月額)の伸びを上回る赤字構造で推移しています。
1人あたりの入院医療費を見てみると、宮城県では、呼吸器系の新生物(腫瘍)と循環器系の疾患にかかる費用が全国平均を大きく上回っています。また、生活習慣病リスク保有者の割合も全国の平均よりも多くなっています。
1人ひとりの医療費を抑えるためには、このような健康課題の解決が必要です。そこで協会けんぽが積極的に取り組んでいるのが「職場健康づくり宣言」です。事業者様に、健康経営に取り組むことを宣言し、職場内での周知を図ってもらうとともに、我々と連携して従業員の健康課題の解決に取り組んでいただきます。2023年6月末時点で、全国で2,401事業所が宣言しており、取り組む事業所数は年々増加しています。
「職場健康づくり宣言」には、6つの登録基準があります。基準の詳しい内容や登録の流れについては協会けんぽ宮城支部のホー
また、協会けんぽでは、健康出前講座の実施や毎年の達成状況を振り返ることができるチェックシートの送付等、「職場健康づくり宣言」に登録いただいた事業所様に様々なサポートを無料で実施しています。
優良法人認定に比べて取組みやすい内容ですので、健康経営の第一歩としてまずは宣言にご登録いただければと思います。
そして、「職場健康づくり宣言」の取り組みの先に健康経営優良法人認定への挑戦があります。協会けんぽ宮城支部に加入している事業所からは、334社(2023年)が認定され、さらにブライト500に11社が選ばれました。我々は、健康経営優良法人認定に向けた無料訪問サポートも実施しています。宮城県でも健康経営が当たり前となるように、これからもサポートを続けていきます。
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<実践企業事例>健康経営の実践紹介(白石ポリテックス工業)
続いて、宮城県内の企業事例として、白石ポリテックス工業代表取締役社長會田幸一郎氏(以下、會田氏)にご登壇いただきました。
會田氏 50年以上に渡り、婦人服の縫製やプリーツ加工業を営む白石ポリテックス工業は、2020年に健康経営優良法人に選定され、続く2021年から2023年はそれぞれ「ブライト500」に認定されました。近年、「社員の幸せ」を経営方針の一つに掲げており、実際に働きやすい環境を確立しようと日々努力を重ねています。
健康経営への取り組みは、総務部による働き方改革や安全衛生管理などの注力がきっかけです。社員の8割が女性ということもあり、出産・子育てをしながら働き続けられる環境づくりを模索していました。健康経営優良法人の認定に向けて、具体的に動き出したのは2016年に協会けんぽの「職場健康づくり宣言」を内外に発信してからです。その後、宮城県の「スマートみやぎ健民会議」にも登録し、さまざまな活動を推し進めながら認定に向けて準備を進めました。
社内の活動としては、始業前に部署ごとで行うラジオ体操や、運動や減塩に関する保健所イベントへの参加、また「歩数アップチャレンジ」など宮城県の取り組みへのャレンジを平時より行っています。社内外のイベントは、経営陣が総務部と企画し、率先して実行する等、トップが旗を掲げながらチャレンジを促しました。加えて、女性の働きやすさを考慮した一般事業主行動計画の策定や実施、コロナ禍では自社で製作したマスクを小中学生に向けて6,500枚を無償で配布するなど、社内外問わず積極的に活動しました。
これらの活動の効果として、スライド(下記参照)のとおり、社員からのポジティブなフィードバックや産休・育休からの復帰率100%という実績が生まれています。
このような実績や社内に限らない地域に根差した取り組みが認められ、ブライト500に3年連続で認定を受けることができました。また、認定を受けて終わるのではなく、この実績や取り組みの内容を対外へ発信することも大事だと考えております。
白石ポリテックス工業では、ブライト500以外にも様々な認証の取得に挑戦し、認定を受けています。そのことを自社HPに公表・PRし、積極的に企業イメージアップに繋げていきました。その結果、自社のHPをきっかけに、健康経営や環境問題に関心を持つ大手企業との新たな取引が生まれたり、宮城県の「スマートみやぎ健民優良賞」の受賞に繋がったりといった実績が生まれました。このような実績は、社員のモチベーションをアップさせ、会社全体のウェルビーイングの向上に繋がると信じています。次は、ブライト500に4年連続で認定されることを目標に、日々活動していきたいと思います。
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「みやぎ健康3.15.0(サイコー)宣言」とスマートみやぎ健民会議(宮城県)
次に、宮城県保健福祉部健康推進課 津田道代氏(以下、津田氏)より宮城県の健康課題の詳細、その解決のための様々な施策が説明されました。
津田氏 宮城県の健康推進課では、県民一人ひとりが生きがいを持ち、充実した人生を健やかに安心して暮らせる健康みやぎの実現を理念とした「第2次みやぎ21健康プラン」を2013年度から展開しています。このプランの中で最重要としているのが健康寿命の延伸です。そして健康寿命を延ばすための重点目標が、「みやぎ健康3.15.0(サイコー)宣言」をキャッチフレーズにした「減塩!あと3g」「歩こう!あと15分」「めざせ!受動喫煙ゼロ」です。
この3つが重点目標に設定された理由は、宮城県が抱える健康問題にあります。宮城県は、全国平均と比べて子供も大人も肥満が多く、40歳を過ぎるとメタボの該当者や予備群の割合が全国2位、脳血管疾患による死亡率が全国平均越えと、人生それぞれのステージで健康問題を抱えている状況が長年続いています。脳血管疾患は介護が必要となる主要な原因のひとつとなっています。後遺症の可能性が高く、日常生活への大きな支障、治療と仕事との両立などの面で生活の質に大きく影響します。
メタボは放置しておくと脳血管疾患だけでなく、様々な疾患に繋がりますが、生活・運動習慣を見直すことで改善できます。取り組めるところから脱メタボを実践してほしいという思いから、「3.15.0(サイコー)宣言」ロゴマークや「みやぎ健康3.15.0ダンササイズ動画」を使って普及啓発を行っています。ダンササイズの動画はYoutubeからご覧になれますので、ぜひご覧ください。
他にも、3人1組で目標歩数のクリアを目指す「歩数アップチャレンジ」の開催や健康づくりに積極的に取り組む団体や自治体を表彰する「宮城県健康づくり優良団体表彰」を行っています。本日登壇された白石ポリテックス工業様は、令和4年度に優良賞を受賞されています。「歩数アップチャレンジ」は昨年度も実施しており、歩数のアップだけでなく、歩数の話をきっかけに社内コミュニケーションが良くなったという声をいただいています。健康経営の理念にも合致すると思うので、ぜひとも事業所単位でご参加ください。
健康経営とも関わりがあるのが、2016年に設立した「スマートみやぎ健民会議」です。産学官が連携して健康課題を解決していこうという考えのもと、市町村や地域の団体、企業や医療関係者などが参加し、県民の健康づくりを支援している会議体です。2023年3月末時点で919の団体が会員登録しており、会員同士の情報交換や健康経営に関するセミナーの実施、さらに報道機関と連携した情報発信などを行っています。ここ数年は、代表者会議や企業同士のセミナーが新型ウイルスの影響で中止されていましたが、今年度より仕切り直して、より活発な活動をしていくつもりです。健康経営の第一歩や社内の機運醸成のためにもぜひ参画してみてください。
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健康経営優良法人認定制度について(健康経営優良法人認定事務局)
セミナーの最後に、健康経営優良法人認定事務局(日本経済新聞社)より、ポータルサイト「ACTION!健康経営」の紹介と、今年度の申請の改定ポイントについての説明がありました。
さらに、健康経営を実践する企業の声や地域連携の展望が語られ、地域で企業同士・保険者・自治体・関連機関等がつながり合う大切さと共に健康経営を支える地域の窓口が紹介されました。
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健康経営に取り組むメリットの1つに、業種業界を超え、企業同士は勿論、メディアや官公庁にまでつながりが出来ることが挙げられます。そこで、講演の後は企業同士で交流ができるネットワーキングの時間が設けられていました。自由参加としていたものの、20名以上の方が参加、活発な意見交換や名刺交換の場となりました。
今回のセミナーでは、登壇企業である白石ポリテックス工業の事例のほか、自治体や保険者による県内の取り組みや関わり方が語られ、セミナーテーマでもある「地域で活かし、地域で広げる健康経営」のヒントを数多く得られるものとなりました。今後、健康経営を起点としたさらなる地域連携・地域経済の発展が期待されます。