健康経営優良法人(中小規模法人部門)の2023年の認定企業が214社、2024年が260社と増加し、熊本県での健康経営の浸透が進んでいます。2024年8月5日(月)、熊本市内で「健康経営で企業の魅力づくり ACTION!セミナーin熊本」が開かれました。地方でのリアル開催としては、2024年の第2弾となる同セミナーには、多くの参加者が集まり、会場は満席に。健康経営に関する情報や企業の好事例に熱心に耳を傾けていました。
登壇者と各発表の概要
・経済産業省
経済産業省からは、現在の国の動向や政策を踏まえつつ健康経営の概要や今後の方向性について説明。データを明示しながら健康経営の効果等に関する説明もありました。
・協会けんぽ熊本支部
熊本県が抱える健康課題を踏まえ、熊本支部で実施しているヘルスター健康宣言や健診の費用補助等の支援策について紹介。また、くまもと健康企業会や情報交換会、認定申請対策セミナーの実施など、ヨコの繋がりへのサポートも充実しています。
・熊本県
生活習慣病を防ぐための熊本県の取り組みである、くまもとスマートライフプロジェクト、プロジェクト応援団について解説。健康経営に取り組む企業を応援するための事例紹介やセミナー開催等の施策の紹介も。
・<実践企業事例①>熊本旭運輸株式会社
運輸業を営む企業の視点からの健康経営に取り組む意義やねらい、実感した効果などをご紹介。さらに健康経営定着のポイントとして、経営層が自ら必要性を捉えて社内へ浸透させる努力をすることを強調。
・<実践企業事例②>日豊食品工業株式会社
健康経営に取組むきっかけやブライト500認定までに道のりについてのお話の他、健康経営推進を担当する常勤保健師の視点から具体的な取り組み内容やその効果についてお話いただきました。
・健康経営優良法人認定事務局
ポータルサイトや申請に関する情報を提供しました。
これからの健康経営(経済産業省)
第1部では、経済産業省が「これからの健康経営」と題して講演しました。世界規模で高齢化が進む中で、同省はヘルスケアビジネスを経済成長の柱として掲げ、国際的な広がりを視野に市場獲得を促したいと説明。さらに、健康経営の推進状況や制度の内容についても触れ、経営トップが健康経営の最高責任者を担う企業が、2014年の調査時はわずか5.3%だったのが、2023年には83.7パーセントに増加したことを紹介。従業員の健康に注意を払うような企業文化を作りあげてほしいと強調しました。加えて、経営者のリーダーシップのもと、より質の高い健康経営を目指していただきたいと激励しました。
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協会けんぽの健康経営支援について(全国健康保険協会熊本支部)
第2部では、協会けんぽ熊本支部の中川正義氏(以下、中川氏)が、熊本県が抱える健康課題や健康経営のPDCAサイクルとそれに付随する各種サポートについて説明しました。
中川氏 平成27年(2015年)頃に「健康経営銘柄」が選定され始め、健康経営の大前提として熊本支部では平成29年(2017年)に「ヘルスター健康宣言」を開始しました。同宣言の立ち上げに私も参加しましたので、今日のようなセミナーに数多くの方々が関心を寄せてくれるようになり感慨深いものがあります。
熊本県が抱える健康課題として、1人当たりの医療費が全国平均を上回っていることが挙げられます。令和4年度には全国4位の214,453円となりました。特に循環器系や腎臓疾患等で医療費がかさんでいます。特効薬のような解決策はないので、それぞれの企業で各従業員が健康に目を向けていく必要があります。
改善に向けて、協会けんぽ熊本支部の「ヘルスター健康宣言」を行う企業が年々増加しており、令和5年度には2,940事業所が宣言しました。健康経営を進めていくにあたってはPDCAサイクルを回していくのですが、協会けんぽでは、健診結果等の経年変化について平均からの立ち位置を確認できる「事業所カルテ」を提供しています。それから「ヘルスター健康宣言」や各種健康づくりに活用できるサポート施策と、毎年定期的に発行する「カルテ」と「取り組みチェックシート」など、PDCAのそれぞれの段階でサポートする体制を整えています。このほか、健診や特定健康指導の各種サポートも行っています。
また、健康経営に取り組む企業同士の横の繋がりを深めるため、「くまもと健康企業会」を発足し様々なサポートにも取り組んでいます。健康経営優良法人認定申請対策セミナーや情報交換会も開催しています。
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熊本県の健康づくりの取り組み(熊本県)
第3部は熊本県健康福祉部健康局健康づくり推進課 宮崎和年氏(以下、宮崎氏)が「熊本県の健康づくりの取り組み」をテーマに県の健康に関する現状や独自の取り組みについて講話しました。
宮崎氏 熊本県の平均寿命は全国でもトップクラスで、令和2年時点で男性・女性それぞれ81.91歳(全国9位)・88.22歳(全国5位)となっています。これに対して、健康寿命は男性・女性それぞれ72.24歳・75.59歳と全国でも中位〜下位に位置しています。この差が医療費や介護費に影響を及ぼすため、いかに差を縮めていくかが課題です。がん検診の受診率や特定健診の実施率は年々増加傾向にあるものの、目標値を達成していないのが現状で、人口1人当たりの医療費も全国で9番目に多く、全国平均を約6万円上回っています。
そこで、県民の生活習慣を改善し、健康寿命をのばすことを目的に「くまもとスマートライフプロジェクト」を展開しています。同プロジェクトは6つのアクション(健診やがん検診受診・適度な運動・適切な食生活・禁煙・歯と口腔のケア・十分な睡眠)を実行するために、啓発活動に加えて「くまモン歩数計アプリ」を公開したり、健康に配慮したメニューを提供する「くま食健康マイスター店」を紹介したりしています。また健康経営の趣旨に賛同し、ともに活動していく企業や団体を「くまもとスマートライフプロジェクト応援団」に認定しています。さらに学識経験者や保健医療福祉関係団体、事業者団体などで構成される「熊本県健康づくり県民会議」を開催して、健康づくりに取り組む団体を表彰しています。
2025年2月9日(日)に開催する同会議のイベントはこれまで以上にさまざまな催しを行う予定ですので、健康経営に興味を持つ方々はぜひ参加してください。
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<実践企業事例①>「健康経営」への経営者姿勢と効果(熊本旭運輸株式会社)
第4部は実践企業事例①として、熊本旭運輸株式会社 根尾二郎代表取締役社長(以下、根尾氏)が登壇。健康経営導入のねらいや定着までの道のり、成果について語りました。
根尾氏 弊社は熊本交通輸グループの1社です。従業員数は85人とこぢんまりとした会社で、運輸サービスとレッカー・ロードサービス事業を行っています。業界を取り巻く環境が厳しくなる一方で、従業員の平均年齢も49歳となっています。これに車離れや2024年問題も相まって、求人難が続いています。
ある時、女性管理者が協会けんぽの方と話していく上で重要性を感じ、健康経営をスタートするに至りました。ねらいとして「既存社員の疾病による離脱の抑制ならびに戦力維持」「健康経営の取り組みを発信して新戦力の確保」、そして「健康起因の交通事故防止」を掲げて、健康診断および再検査の受診率100%を達成。対象者には特定保健指導を実施しました。また、産業医の意見を取り入れた安全衛生委員会を通じて、会社負担での検診や予防接種を推進しました。
我々の業態は365日24時間のシフト体制で、長距離ドライバーとなると出発してから3日後に帰ってくることになります。そのため、皆が一斉に検診を受けるのが非常に難しいのです。受診自体を嫌がる人もいました。このような中、健康管理の定着を進めるために一番重要だったのが、私自身がその必要性を捉えて、社内で繰り返し語り続けることでした。「なぜ必要なのか?」と聞かれれば、先ほどの3つのねらいを達成したいからだということを何度も説明しました。また、経営層が毎年取り組みの素案を作ったり、短期間で目に見えるコスト効果を求め過ぎたりしないことも重要だと感じています。
健康経営の取り組みの効果として、過去3年間、疾病による長期離脱者を1人も出していません。そして人財確保の面では、2年ほど求人への応募がゼロだったのですが、2023年は20人以上面接し、15人を採用しました。奇跡のような話ですよね。今後は、メンタル疾患の予防対策にも注力したいと考えています。
「健康経営の実践責任者は経営トップ」と言われていますが、これは本当だと感じます。加えて、取り組みの目的を明確にして、社内に浸透させることが重要です。さらに、健康経営は投資と捉えて、費用対効果について即効性を求めすぎないことも大切です。皆さまの参考となれば幸いです。
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<実践企業事例②>健康に働ける会社を目指して(日豊食品工業株式会社)
続いて、実践企業事例②として、日豊食品工業株式会社 小野雅充取締役社長(以下、小野氏)と池田暖菜氏(以下、池田氏)が登壇。「健康に働ける会社を目指して」と題して、自社の健康経営への取り組みについて語りました。
小野氏 我が社は自然に囲まれた立地で、食を通じて笑顔を作るという思いで食品製造、製氷などの事業を行っています。私よりずっと先代の社長が40数年前に企業理念として「健康をつくり、心をつくり、故郷をつくる」を掲げていますが、健康経営やSDGsといった言葉がない時代にこれを考えたので先見の明があるなと感じています。
従業員の高齢化がひとつの課題であり、2017年に親会社のニッスイグループが健康経営宣言をしたことで、我々も本格的に健康経営への取り組みをスタートしました。2019年に協会けんぽの「ヘルスター健康宣言」を行い、2020年から健康経営優良法人に認定されています。さらに2024年にはブライト500に選定されました。
池田氏 私からは、具体的な取り組みについて説明します。就業時間中に受診できるよう巡回健診バスを利用した定期健康診断を実施しています。また特定保健指導についても就業時間中に実施できるよう時間と場所を確保しており、必要に応じて在籍している保健師も同席して継続的なフォローを行っています。2024年度からは、受診を勧奨するために就業規則に明記しましたが、あくまで強制ではなく、従業員自身に必要性を感じてもらうことが重要だと考えています。
このほか、イベントとして「健康増進チャレンジキャンペーン」やくまモン歩数計アプリを利用した「ウォーキングイベント」、感謝の気持ちを発信する「感謝グッジョブカードキャンペーン」などを開催しました。これらにプラスして、デジタルサイネージを活用して熱中症・感染症対策を呼びかけたり、禁煙や受動喫煙防止の対策を講じたり、さまざまな角度から健康づくりの活動を実施しています。
弊社の従業員は103人で、50代以上が6割を占めています。高年齢の従業員が多いので、顕著なデータの改善(有所見率の減少など)はまだ見られていませんが、健康への意識は確実に向上しています。これが病気の早期発見や治療につながり、休職・離職防止やパフォーマンスの向上に好影響を与えていると感じます。熊本県健康づくり県民会議の表彰もいただきましたし、健康に関わるセミナーに参加することで色々な方とつながれたのも効果のひとつです。健康経営に取り組むことで、魅力的な会社になると考えていますので、ぜひ皆さまにも着手していただきたいと願っています。
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健康経営優良法人認定制度について(健康経営優良法人認定事務局)
プログラムの終盤に、健康経営優良法人認定事務局(日本経済新聞社)より3点お話させていただきました。
1点目は事務局としての活動についての説明です。ポータルサイト「ACTION!健康経営」の活用方法や健康経営コンサルティング自己宣言企業リストをご紹介しました。ポータルサイト内の「地域の取り組み」ページでは、地域での宣言事業や入札加点、ローン金利優遇といったインセンティブの紹介が掲載されていますので、是非ご確認ください。
2点目は健康経営優良法人2025の申請における、昨年度からの変更点です。具体的にはフィードバックシートの開示や新たな顕彰枠「ネクストブライト1000」の設置、小規模法人向けの特例制度などを中心に紹介しました。顕彰枠の拡大や小規模法人向けの特例制度の追加によって、従業員規模の小さい法人も申請に挑戦していただきやすくなりました。
3点目は、健康経営の実践として、健康経営を通じてステークホルダー同士がつながることが、地域全体の活性化や経済力の向上にも寄与するという事務局の考えをお伝えしました。企業と保険者・自治体・経済団体・金融機関・医療関係者等が連携することで、地域の健康のみならず経済力も高まっていきます。
終了後のネットワーキングでは、簡単なワークショップを通して参加者が活発に名刺交換や情報共有を行っていました。
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