健康経営優良法人(中小規模法人部門)の認定数が87社(2023年)から137社(2024年)へと、全国2位の増加率(前年比)を達成している富山県。2024年8月7日(水)に富山市内で「健康経営で企業の魅力づくりACTION!セミナーin富山」がリアル開催されました。これから健康経営に取り組もうと考える企業からの参加も多く、年々関心度がアップしていることがうかがえる有意義なセミナーとなりました。
登壇者と各発表の概要
・経済産業省
健康経営を推進する背景や市場や各方面への広がりについて、ならびに今年度の改訂ポイントなどを解説。取り組みの効果や富山県の認定状況についてデータを用いて紹介しました。
・協会けんぽ富山支部
富山県が抱える健康課題の傾向に加えて、「とやま健康企業宣言」によって企業がどのように健康経営への取り組みを推進していくのかを紹介。企業にぜひさまざまなサポートを活用してほしいと強調しました。
・富山県
富山県の寿命と健康寿命との開き具合や課題改善に向けた県の取り組みについて説明。とやま健康経営企業大賞を受賞した企業の取り組み事例などにも触れました。
・<実践企業事例①>株式会社シンコー
人材確保に向けた取り組みの一環として健康経営に着手。健康を考えるきっかけづくりや健康づくりの施策やアクティビティを就業時間内で行っていることが特徴で、健康経営優良法人2024にも認定されました。効果や苦労した点についてもお話いただきました。
・<実践企業事例②>株式会社開進堂
全社員とその家族の心身の健康を実現するためにさまざまな取り組みにトライ。協会けんぽの指導を仰ぎ、県の健康への意識向上に向けたイベントなどに積極的に参加しながら、健康経営優良法人に4年連続認定されるなど、企業健康経営の推進に成功しました。
・健康経営優良法人認定事務局
ポータルサイトの活用ポイントや今年度の申請に関わる情報について共有。健康経営に持続的に取り組むことの重要性を伝えました。
これからの健康経営(経済産業省)
プログラム1つ目は、経済産業省が演題「これからの健康経営」について講演しました。なぜ国が健康経営を後押しするのかといった背景や人的資本への投資の重要性を訴えたほか、健康経営のインパクトや推進の先にある展望、今年度の改訂ポイントを説明。富山県は健康経営優良法人(中小規模法人部門)の認定数が2023年の87社から、2024年には137社と全国2位の増加率(157パーセント)であるものの、認定法人割合・年間認定法人増加率については全国平均を下回るため、これから取り組む余地が十分にある県であると述べました。
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働く世代における健康課題と「とやま健康企業宣言」(全国健康保険協会富山支部)
プログラム2つ目は、協会けんぽ富山支部 松井泰治氏(以下、松井氏)が演題「働く世代における健康課題と『とやま健康企業宣言』」について講演しました。
松井氏 富山県の課題として、がんや脳卒中など生活習慣病に罹患する割合が全国平均と比較しても高く、メタボリックシンドローム該当者の割合も全国ワースト11位であることなどが挙げられます。これを裏付けるように、運動・睡眠不足や冷凍調理品の利用率といった統計でも全国下位の結果が出ています。
現状を改善していくべく、富山支部・富山県・健康保険組合連会において「とやま健康企業宣言」を実施しています。令和6年6月30日時点で、939社が既に宣言を行っています。宣言すると事業所の健康課題を明確化するために、被保険者と被扶養者の健診受診率などをまとめた「事業所健康度診断」を提供し、企業ごとの課題を設定します。その次に、Step1(健診を100%受診するといった基本的事項)をクリアして認定を受けると、Step2(健診実施後のフォローアップやメンタルヘルス対策など働き方改革に通じる項目)にチャレンジできる仕組みです。達成に応じて認定証の交付や新聞広告への掲載や、ラジオ出演などが可能となります。
健診実施率が全国3位、特定保健指導実施率は全国1位(いずれも2021年)となるなど効果も表れていますので、我々が行う健康づくりへの取り組み支援をぜひご活用ください。
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健康寿命日本一を目指して〜富山県における健康課題と健康増進施策〜(富山県)
プログラム3つ目は、富山県厚生部健康対策室健康課 石﨑智雄氏(以下、石﨑氏)が演題「健康寿命日本一を目指して 富山県における健康課題と健康増進施策」について講演しました。
石﨑氏 富山県における健康寿命は延びていますが、平均寿命との差が男性・女性それぞれ9年・12年という開きがあります。この不健康な期間を縮めていくことがウェルビーイング向上につながっていくと考えています。
健康へ悪影響を与えるメタボや睡眠の質、運動不足の改善に向けて「富山県健康増進計画」を打ち出し、進捗を管理するのに各団体や学識関係者などで構成される「富山県健康づくり県民会議」を設置しています。従業員への健康管理を推し進めるべく協会けんぽと「とやま健康企業宣言」を実施しているほか、先進的な取り組みをする企業を顕彰する「とやま健康経営企業大賞」を展開し、これまで57社が受賞しています。
具体的には、禁煙のための医療機関受診費用に企業が補助金を出す取り組みや健康状態や改善度を点数として算出するシステムの開発、社内だけではなくステークホルダーに広く発信を行った企業などが評価されています。そのほか、県主体で健康ポイントを付与するアプリ「元気とやまかがやきウォーク」の提供や企業を対象とした健康に関するセミナーの開催や支援などの施策を講じています。
健康経営に取り組む企業の方々と接する中で、経営者自らが取り組んでいることや従業員を非常に大切にされているのを感じます。無関心層や働き盛り世代も巻き込んで対策が進められるように、今後も企業とも連携して取り組んでいきたいと考えています。
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<実践企業事例①>健康経営が作り出す「ものづくりの原動力」(株式会社シンコー)
実践企業事例1つ目は、株式会社シンコー 中川真太郎代表取締役社長(以下、中川真太郎社長)ならびに中川麻恵子取締役室長(以下、中川氏)に演題「健康経営が作り出す『ものづくりの原動力』」について講演されました。
中川真太郎社長 我が社は精密板金加工・製缶加工・機械加工・組立を一貫して行っている金属加工業です。特徴は機械の手と人の手の協調をものづくりの原動力としていることであり、今後も保っていくためには何が必要かと考えた時に、機械であれば日々のメンテナンス、他方で人には働きたい・働き続けたいと思える会社づくりを通して「人材の確保」を実現していくことが重要だと思ったのです。具体的には「教育プログラムの整備」と冷暖房完備といった「職場環境の整備」そして、「スタッフのケア」について整備するために取り組み始めたのが健康経営です。
中川氏 実際の取り組み内容について、「禁煙サポート活動」は全スタッフに喫煙習慣に関するアンケートを実施し、産業医による禁煙についての講習会や禁煙デーの制定、禁煙外来への補助金などのサポートを行っています。その結果26.8パーセント(2021年)の喫煙率が、17.6パーセント(2024年)まで下がっています。婦人科検診・付加検診費用の会社負担を含めた健診の徹底も進めており、再検査受診や特定保健指導面接の実施率も100パーセントを達成しました。野菜の摂取量のチェック、血管年齢などを調べ優良者を表彰する「シンコー健康フェスティバル」や腰痛対策グッズの導入、工場内の施設で就業時間内にヨガやピラティスのレッスンを開講、ノー残業デーの導入など健康意識の醸成から運動機会の創出まで幅広く取り組んでいます。その結果、健康経営優良法人2024ならびにとやま健康経営企業大賞などの評価につながりました。
中川真太郎社長 取り組みの結果として、「採用」では6名の新入社員を迎えており、就職活動で「独自の福利厚生があることが一つのポイントになった」との声が上がっています。「離職率」について、取り組み前は5.78パーセントほどありましたが、2022年には1.54パーセントまで減少しています。「生産性」に関しても、アクティビティなどで業務の時間が少なくなるものの、スタッフや管理職が仕事の優先順位や時間配分を考えていくことでキープできています。
スタッフの意識改革が一番苦労した点です。ただ、管理職に対して会社の思いを伝えたり、何度もスタッフにメッセージを発信したりしていくことで共有と浸透を図りました。次第にアクティビティに参加する人が増えていき、健康経営への理解が深まっていったと感じています。今後は、ブライト500の認定を目指して、生活習慣の改善やメンタルヘルスなど着手していないところに目を向けていきたいと思います。
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<実践企業事例②>「健康経営」から「働き方改革」そして「ウェルビーイング」へ(株式会社開進堂)
実践企業事例2つ目は、株式会社開進堂 耳浦弘志氏(以下、耳浦氏)に演題「『健康経営』から『働き方改革』そして『ウェルビーイング』へ」について講演いただきました。
耳浦氏 高岡市で創業し、総合電気設備設計・施工会社として地域に根ざして78年、公共施設や商業施設の電気工事や空調給排水工事を担ってきました。社員数は103名です。私は2016年に転職したのですが、当時「離婚した妻に財産分与するため、自宅を売却したい」「ワンオペ育児に妻が耐えられず、転職してほしいと迫られている」といったうわさ、そして下請け体質や3Kと言われる長時間労働が当たり前の状況を目の当たりにしました。これを改善したいと、「全社員とその家族が心身ともに健康になれる」や「「働き方改革を推し進め、社員満足度の向上と人員確保を図る」「ICTを積極的に活用し、労働生産性を向上させる」の3つを目標に、まずは「健康経営」に取り組みました。ただ、何から始めてよいのかわからなかったので、協会けんぽさんに指導をお願いしました。
まずは、あまり費用がかからないことから思いついたことはなんでも手当たり次第にトライしてみました。健康の面において、具体的には、ウォーキングなどのスポーツ大会への補助金、「特定保健指導」の活用、各種セミナーの活動などです。特に健康への意識向上につながったのは、県の「ぐっすりとやま」キャンペーンです。県内の多くの企業が参加しており、我々も5つのチームが参加しました。取り組みの結果、健康診断受診率はほぼ100パーセント、特定保健指導利用率も2021年から毎年100パーセントを維持しています。そして協会けんぽの健康企業宣言の「銀」、働き方改革推進企業表彰で「富山県知事賞」、2021年には健康経営優良法人「ブライト500」の認定を受けるに至りました。
次に「働き方改革」に取り組みました。人材育成と分業化による時間外労働の削減、女性社員の育休取得率100パーセントの維持、ペーパーレス化、勤怠管理ソフトの導入など課題解決につながる取り組みを多岐にわたって行いました。しかしながら、古参で保守的な社員や年配の方がなかなか新たなツールを使ってくれず、悩んだこともありました。しかしパソコンやスマホの使い方を根気強くレクチャーすることで、次第に役立つことを実感してもらえれば最後には感謝してもらうことができました。
人手不足や時間外労働の上限規制への対応など時代とともに考えていかなければならないことは多いですが、今後も当社で働く従業員とその家族の幸せ、すなわちウェルビーイング向上のために取り組みを続けていきたいと思います。
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健康経営優良法人認定制度について(健康経営優良法人認定事務局)
プログラムの最後に、健康経営優良法人認定事務局(日本経済新聞社)がポータルサイト「ACTION!健康経営」にて8月19日から開始した申請に関する情報などをまとめていること、そのほかインセンティブや企業の実践事例など取り組みに役立つ情報を発信していることを紹介しました。さらに、今年度の申請における改訂ポイントやスケジュールについても説明。地域や経済活性化につながる健康経営に持続的に取り組んでほしいとお願いし、セミナーを締めくくりました。
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